第18章 覚悟
明け方、宿賃を払い、港に向かった二人はぎょっとした。
早朝の港は、漁の荷下ろしですでに活気づいている。
その中に、海の男達と明らかに違う男達が数名いた。
男達の中には、見知った顔もちらほら。
贋兵衛の屋敷にいた者達だ。
男達を突破するのは容易いが、騒ぎを起こせば和の国の役人に目をつけられ面倒なことになる。
「イゾウ隊長、裏手に回りましょう」
イゾウも頷き返して、砂浜や小高い丘のある側へ向かった。
裏手についた二人は、波打ち際に浮いている一艘の小舟の主に『舟を売って欲しい』と声をかけた。
もちろん、お金は相場に上乗せして提示した。
主は曖昧な笑みを浮かべ緩慢に動きながらも、差し出された沙羅の手にあるお金に手を伸ばした。
取引成立。
そう、思った。
その瞬間。
“?!”
沙羅の体を異変が襲った。
言いようのない倦怠感。
体から力が抜ける。
「沙羅?!」
イゾウの声が遠い。
自分の力で立つことがままならない。
倒れ込む沙羅をイゾウが支えるのと囲まれるのは同時だった。
「旦那、言われた通りにしましたよ」
舟の主はへらへらと笑いながら、取り囲む男達の中心に立つ男に笑いかけた。
『約束の金を・・・』言いながら男へ手を差し出すのと、男が舟の主に銃口を向けるのはどちらが早かったか。
呆然とした表情のまま、舟の主は空を見上げ動かなくなった。
「沙羅様をこちらに」
男は、まだ煙の上がっている銃口をそのままイゾウに向けた。
「イゾウ・・・長」
声を震わせ、途切れ途切れに絞り出された声。
「問題ねぇ」
自分を差し出すように言われた沙羅に余裕の笑みを浮かべ、自分に向けられた銃口など気にも止めずに沙羅を肩に担ぎ上げた。
「聞こえなかったかっ?!」
撃鉄の起きる男にイゾウは笑った。
「打てよ、それで終わりだ」
イゾウの言葉に男の銃が火を吹いた。
だが、倒れたのは男の方だった。
「警告したぜ、終わりだと」
目にも止まらぬ速さで抜かれたイゾウの銃が、イゾウ達を囲む男達に向けられた。
「・・・っ、つ、捕まえろ!」
指令を失い、イゾウの迫力に完全に押された男達など物の数ではない。
あっという間に道を切り開き、小高い丘を駆け上る。
丘の下には泡立つ白波。
飛び降りるのを躊躇する程度の高さに男達は、息を乱しながらも安堵した。