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海を想う、海を愛する。【ONE PIECE】

第18章 覚悟 


 その日の夕刻より少し前、イゾウと沙羅は回りと比べて一際大きい屋敷の前に立っていた。
入口を掃除していた女が訝しげに近づいてくる。
「あの、何か?」
するとイゾウが急に丁寧に、挨拶をした。
「突然の訪問申し訳ない、こちらにいらっしゃったユエさんの事でお話があるのだが、ご主人はご在宅か?」
女中はユエを知らないらしい。
首を傾げながらも、しかし、お待ち下さいと言うと屋敷に確認しに行った。
少しすると、四十半ば程の女がやってきた。
女は沙羅を見ると目を見開き、『ユエ様・・・』と呟いた。
『晴陽(ハルヒ)』と名乗った女はすぐにイゾウと沙羅を屋敷に招き入れた。
『晴陽は主を呼んで参ります』と部屋を辞し、入れ違いに女中がお茶を出しにきた。
少しすると、二つの足音が部屋に向かってきた。
「お待たせいたしました、主が参りました」
晴陽の声とともに、障子が開かれ、白髪の老人が入ってきた。
晴陽がそうだったように、老人は目を見開き、次いで薄らと涙さえ浮かべた。
「ユエ様によく似ておられる」
言いながら正面に腰を下ろすと、深々と頭を下げた。
「この屋敷の主、贋兵衛(ガンベエ)と申します」
「沙羅と申します」
「イゾウと申す」
三人は挨拶を交わすと、すぐに話しを始めた。



 外はすっかり暗くなり、虫の声が風に乗り流れてくる。
聞きたかった事をほぼ聞き終え、思い出話になるとすぐに夕餉の準備が始まった。
予定では、近くに宿を取るつもりだったのだが、贋兵衛の、是非お泊まり下さいとの好意に甘えることにした。
贋兵衛が『後ほど』と言い、夕餉の準備の間部屋を去っていくと、また晴陽がやってきて客間に案内された。
僅かな荷物を置き、一息つこうとしたイゾウに晴陽が声をかけた。
「イゾウ様、厠にご案内いたしますね」
「・・・」
厠(=トイレ)に行きたいと言った記憶はない。
何か意図を感じたイゾウは異を唱えることなく従うことにした。
「こちらです」
客間の比較的近くの扉を示した晴陽。
イゾウは沙羅の回りに不穏な空気がないことを確認し、厠の戸を開けた。
すかさず晴陽が用意して置いた厠用の紙を差し出した。
「どうぞお使い下さいませ」
「あぁ」
イゾウが相槌を打つと、晴陽は去っていく。
厠の戸をしめたイゾウは渡された紙を開いた。
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