第18章 覚悟
得体の知れない、だが、間違いなく一筋縄ではいかない男だ。
グレンは男、イゾウの強さをそう判断した。
恐らくグレンがゾイド海賊団の一員とわかっている。
一瞬ではあるが確認するように送られた視線。
にもかかわらず、茶屋に向かいつつ散策していた女の足をわざわざ茶屋に真っ直ぐ向かわせて、一人でグレンに向かってきた大胆さ。
グレンは7億ベリーの賞金首。その強さは新世界に知れ渡っている。
そのグレンを前にして、女の傍を離れるからには、余程の自信があるのだろう。
帯刀している刀以外に決定的な“何か”を隠している。
それが武器なのか、能力なのか。
そして、すれ違った時に感じた感覚。
殺気も怒気もなかった。
ごく自然に振る舞いながら、言い知れぬ存在感を放つのは普通ではない。
そう感じたグレンは、沙羅捕獲をあっさり諦め、胃袋を満たすことにした。
ただ、大胆なのはグレンも一緒。
イゾウと沙羅が腰掛けている背後に堂々と座り、そばを注文した。
物足りなさはあるが、とりあえず空腹は満たされたグレンは何の気なしに沙羅を見た。
串団子を幸せそうに食べる姿は端から見ても笑ってしまいそうだ。
どうにも美味しそうに見える団子を、グレンは羨ましそうに見た。
余程羨ましそうに眺めてしまったのだろうか。
ふいに、串団子片手に沙羅が振り返った。「「・・・」」
不思議な色の瞳がグレンを見つめた。
グレンは団子と沙羅から気まずそうに目を逸らしかけ、そこで止まった。
グレンに差し出される団子の乗った皿。
「よかったらどうぞ?」
向けられた笑顔と団子に面食らうグレン。
思わずイゾウを見れば、肩を震わせていた。
見た目と違ってどこまでも大胆、いや豪胆な男らしい。
背を向けていても守り切れる自信があるのだろう。
ともあれ、グレンはまじまじと沙羅を見つめた。隊長格と同等の強さだと聞いたがとてもそうは見えない。
物腰の柔らかさ。
この警戒心のなさ。
大人びているようで、どこか子供っぽい。
そこまで考えて、グレンはニカッと笑った。
「ありがとな」
ちゃっかり二本手に取ると、立ち上がった。
僅かにイゾウの目がグレンを見た。
しかし、グレンは特に見返すことなく、後ろ手に手を振り去っていった。
「お団子よっぽど食べたかったみたいですね」
呑気に見送る沙羅だった。