第18章 覚悟
翌朝、宿を後にしたイゾウと沙羅は今日中に海神族の親戚の家に着く為に急ぎ足で道中を進んでいた。
急いだおかげか、予定よりも早く比較的賑やかな宿場町についた二人はゆったりと町中を歩いていた。
雑談を交わしながら、少し休もうかと適当な茶屋を探す。
相変わらず、物珍しそうにきょろきょろと辺りを見ている沙羅と、それを見守るイゾウ。
そのイゾウの目が何かを捕らえた。
同じ宿場町の同じ頃。
悪魔王ゾイド配下のグレンは食事処を探しながら、ぐだぐだと歩いていた。
朝方まで情事を楽しんでいたため、胃の中はアルコールが残るのみ。
胃袋が存在を主張するようにぐうぅ~となる。
“腹減ったぁ”
お腹をさするグレンの視界に涼味の二文字。
この際、胃袋が満たせれば何でもいい。
店に向かって歩み始めたグレン。
と、同じ方向を目指して進む二人組に気がついた。
“あの女、確か・・・”
グレンは沙羅を見た。
名前は思い出せないが、素性は知っていた。
“不死鳥マルコの女”
グレン自身は興味がわかなかったため断ったが、仲間が必死になって捕まえようとしていたはずだ。
それが何故こんな処にいるのだろうか。しかも不死鳥以外の男と一緒に。
グレンはさりげなく男を見た。
艶やかな笑みを浮かべて佇む姿は、独特の存在感を放っている。
同性のグレンから見ても惚れ惚れするほどのいい男だ。
不死鳥とは別れたのだろうか?
と考えて、やめた。
それよりも偶然にも不死鳥も白ひげも、名の知れた隊長達もいない。
興味はないが、目の前にいるのなら捕まえるか。
その考えが過ぎった時、僅かに嫌な感じを覚えた。
一瞬、男がこちらを確かに見た。
「・・・」
グレンは歩調も方向も変えずに、歩みを進めた。
このまま歩めば不死鳥の女とすれ違う。
隙あらば・・・と思いつつ、男がどうでるか見てみたかった。
お互いにあと数歩進めばすれ違う程度に距離が縮まった時、男が女に何か囁いた。
すると女は急に一人で、涼味と掲げている茶屋に真っ直ぐ歩きだした。
対して男はそのままゆっくりグレンのいる方向に進んでくる。
グレンも特に構えることなく進む。
一歩、また一歩、距離が縮まり・・・二人はすれ違った。
“!!”
態度に出さなかったのは、グレンだからこそ成せる事。
しかし、背中が凍りつくほどにぞくりと悪寒が走った。