第3章 偉大なる双璧
時は少し遡る。
見る物、触る物のほとんどが、まだまだ珍しい沙羅はきょろきょろとしながら、マルコに手を引かれて歩いていた。
始めは好きに歩かせていたのだが、迷子になりかける事、十数回。
マルコはサッチの冷やかしを黙殺し、手を繋いで歩くことにした。
「サッチ!あれは何?」
「あれは、綿飴ってお菓子・・・って!いねぇし」
サッチの回答を聞くやいなや、マルコを引っ張っていく。
あまりのはしゃぎぶりに、さすがのサッチも疲労の色を隠せない。
それでも、可愛い笑顔で沙羅に『はい、サッチの分』と綿飴を差し出されれば、そんな疲れも吹っ飛んだ。
そんな時だった。
「って!っ」
「あぁ?!何だぁ?!」
白ひげのクルーとぶつかった男は声を荒げ、肩のぶつかったクルーをど突いた。
「やんのかよ?!」
負けじと言い返した瞬間、顔面に繰り出された拳に吹っ飛ぶクルー。
「ッぶっ倒す!」
「やれやれ!」
柄の悪い者同士がにらみ合えば、商人は店を畳み、住人は戸を締めた。
一触即発。このまま乱闘になるかと思われた。
「やめろい!」
低く通る声に、サッチを除く全員がその声の方向をみた。
「マルコだ・・・」
「白ひげのとこの・・・」
ざわつく男達に睨みを効かせながら、いきり立つクルーに言った。
「万一の事があっちゃならねぇ、わかってんのか!」
その言葉に沙羅の存在を思い出したクルー達は、舌打ちしつつ武器を下ろす。
張り詰めた空気が一瞬緩んだ、次の瞬間。
『アッ・・・』と小さな悲鳴があがり、マルコは振り返った。
「女だぁ!」
「まだガキだろ」
「けど上玉だ、高く売れる」
「ヒヒ、売らねぇでいろいろ遊ぼうぜぇ~」
始めて向けられる下卑た視線や笑い、欲に塗(マミ)れた感情に瑠璃色の瞳が恐怖に染まる。
それを見たマルコの瞳に、底冷えするような凄まじい怒りが宿った。