第17章 それぞれの想い
ハレム島の時と違い、何の心構えもない沙羅の反応は素のままで、誰の癖も色にも染まっていない。
その真っ新な反応に、マルコは顔が緩むのを抑えられない。
首筋に舌をゆっくりと這わせながら、何度も啄むように唇を寄せる。
そして、ちらりと、先日自分が付けた紅い跡を確認した。
「消えちまったな」
いつの間にか背中に回された右腕に、逃れることができずにマルコを軽く睨むように見つめる沙羅を変わらずの笑みで見返す。
一瞬、何のことかと考え込み、はっとした沙羅は涼しげな目元を見開き、本能的にマルコから逃れようと体を捩った。
しかしマルコにとっては、じゃれてる仔猫のように脆弱な力。
これで逃れられると思う沙羅が、可愛くて仕方がない。マルコは咽を鳴らして笑った。
消えてしまった紅い跡の上に、上書きするように唇を寄せた。
「っ!・・・っマルコ・・・痛っ・・・っあ・・・」
ハレム島の時よりも強く走った痛みに、自分でもびっくりするような声がでてしまう。
その声を耳元で捉えながら、マルコはくっきりと浮き上がった紅い跡を満足そうに見つめた。
二度目ともなれば、疎い沙羅でもわかる。
前回はキスマークの跡とは思わずに、散々シルビアにからかわれたのだ。
月明かり故に、わかりにくいが耳まで真っ赤にしながらマルコを睨もうとした。
が、眼前に優しく微笑むマルコの顔、そして・・・。
「“可愛かったよい”沙羅」
「!!」
ハレム島の記憶が鮮やかに蘇った。
『可愛かった、頑張ったよい』
羞恥に必死に耐えて花魁を演じた沙羅にマルコが囁いた言葉。
“可愛かった”
大好きなマルコに言われて嬉しくないはずがない。
どうしても、自分の胸の内だけの秘密にしておきたくてサッチには教えられなかった言葉。
それを今、また言うなんて。
“ずるい”
怒るに怒れなくなった沙羅は恨めしそうにマルコを見た。
マルコも沙羅の反応は予想していたのだろう。
ニヤリと笑い、『思い出せたみてぇだな』と言うと、何事もなかったかのように体を離した。
そしてそのまま積み上がった空樽に寄りかかると、急に真剣な表情を浮かべた。