第17章 それぞれの想い
それでも、自分の指にほわりと安らぐ沙羅を見れば、欲情を上回る強い思いがマルコを包んだ。
自分だけに向けられる信頼に応えたい。
緩やかに安らぐ時間を守りたい。
海に漂う数多の人々の苦しみを自分のことのように感じ、
自身も深い悲しみと憎しみを抱えている沙羅。
ハレム島で暴走した時に垣間見た記憶、感情。
血の海に物のように転がっていた沙羅の母、ユエであろう塊。
その時の沙羅の絶望、憎悪、悲哀。
過去をないものには出来ないけれど、もう二度とそんな思いをさせたくない。
浄化によって沙羅の心が少しでも癒されるなら、それでいい。
“沙羅を想い、沙羅を愛しているから”
マルコはじっと見つめた。
何度この想いを告げようとしたことか。
好かれている自覚はある。
だが、
マルコの好きと、
沙羅の好きが
一緒かは分からず。
兄として、親友として好きと言われるのが怖い。
この想いを拒絶されたら、耐えらないかもしれない。
海軍中将だろうが、軍艦だろうが、億越えの海賊だろうが恐れることのないマルコ。
好戦的ではないが、必要と判断すれば先陣を切る質だ。
それでも、この曖昧な関係を壊すのは恐ろしい。
恐ろしいのに、この想いは募り、積もり、溢れてしまいそうだった。
好きで好きで、
ずっと、好きで、
言葉にできないほどに好きで、
大切な沙羅。
“沙羅・・・好きだよい”
唐突に想いを告げたくなった。
胸の内で告げた想いを言葉にしようとし、そこで近づいてくる気配に気がついた。
浄化を終えたばかりで危うい雰囲気を残している沙羅は気配に気づいていない。
戸惑うことなく、マルコは沙羅を自分の腕の中に引き寄せた。
「マルコ???」
「誰か来るよい」
僅かに身じろぎする沙羅を軽く押さえるように、抱き締める。
沙羅の耳にも届く声が徐々に大きくなり、そして小さくなっていった。
ほっとする二人。
と、どちらからともなく笑い出した。
別に悪いことをしていたわけでもないのに、この緊張感は何だったのか。
一頻り笑い、そして沙羅はふと思い出した。
「そう言えばマルコ」
「?」
言葉には出さずとも『何だよい?』と目が先を促す。
「サッチが信じてくれないんだけど」