第17章 それぞれの想い
沙羅に手を引かれ甲板に出たマルコは、欠け始めた月を見上げていた。
視界の端でちらっと沙羅を見遣れば、今にも飛び立つのではないかと言うように首を伸ばし、手を広げ、月光を全身に浴びている。
沙羅だけがそうなのか、海神族がそうなのか、それともマルコ達人間が忘れてしまっただけなのか。
月の光は体内を浄化し、太陽の光は生きる力を強くし、自然の気は身も心も癒してくれると話してくれた沙羅。
何度見ても、神がかり的な光景にマルコは目を細めた。
昔から、月光を浴びる沙羅の姿を見られるのは、マルコだけの特権。
約束を交わしたわけでも、どちらが告げたわけでもない。
強いて言うのであれば、心と心が無意識に響きあった。
月の光を意識して浴びなくては、浄化はできないから。
浄化している時は、無防備になってしまうから。
そして無防備になった沙羅は、わざと手折り、汚したくなるような危うい儚さと美しさを醸し出すから。
他の男の前で、
その姿を曝すのは危険だと。
自分以外の男が、
その姿を見るのは耐えられない。
マルコは思った。
そして沙羅も、自覚はなくても、本能が知っていた。
マルコなら守ってくれる。
マルコなら信じられる。
マルコだけが、特別。
マルコが、沙羅と初めて会った時から無意識に惹かれたように、
沙羅もまた、無意識にマルコに惹かれていたのだ。
気持ちを自覚した時期は大きく異なる。
だが、初めからお互いに惹かれ合い、信頼し合い、深い絆を結んでいったのは間違いなく、お互いがお互いを求めていたからだ。
「・・・」
「・・・」
ふと、示し合わせたように沙羅とマルコの視線が絡んだ。
危うい儚さのままに微笑む沙羅。
その表情にまだマルコが十代だった時は、欲望が理性を上回り貪るように求めそうになった。
それを何とか押さえ込んだ晩は、まだ幼い沙羅を頭の中で、夢の中で何度も何度も激しく汚(ケガ)した。
でも、大人になった今は・・・“守りたい”。
マルコの指が、浄化によって儚く揺らめく沙羅の頬を撫でる。
欲情していないわけではない。
今すぐに抱き締めて、唇をよせ、舌を這わせ、その先を望む思いもある。