第17章 それぞれの想い
小さく深呼吸した沙羅は口を開いた。
「あ(のね)」
「明日、だな」
二人は同時に口を開いていた。
「「・・・」」
視線が重なり、どちらからともなく笑いが溢れる。
その些細なやり取りが心地よい。
この数日間の気まずさが嘘のように、二人は自然に言葉を交わしだした。
イゾウが、小梅を送った際に聞いた海神族の親族の話。
和の国出身のイゾウには、その親族の居所に心辺りがあること。
そして、自分自身を知らない沙羅の不安、恐怖、孤独。
自分は人間なのか、化け物なのか。沙羅はいつも不安だった。
自分でも限界のわからない底知れぬ力は、制御することすらできず。
いつか家族を、白ひげを、マルコを殺してしまうのではないかと、恐れる日々。
だからこそ、和の国に行き、親族を訪ねたいのだと沙羅は告げた。
その全てを遮ることなく黙って聞いていたマルコ。
その耳に届いた言葉。
「そばにいるって約束したのに、ごめんなさい、でもすぐに、帰ってくるから、今度こそ必ず」
マルコを見つめる真っ直ぐな瞳。
実際は、マルコの苛立ちの原因は違う所だ。しかしその的外れでありながらも交わした約束を守ろうしてくれる沙羅の心がマルコにはどうしようもなく嬉しかった。
「沙羅」
愛おしさを込めて名前を呼び、自身のすぐ傍に呼び寄せた。
何の戸惑いもなく進んでくる沙羅の反応が嬉しくもあり、腹立たしくもあるその腕に触れる。
華奢な手首。
透き通るような透明感。
しっとりとした柔らかな肌。
その全てがマルコを魅了する。
「?・・・」
腕に触れたまま、言葉を発しないマルコを不思議そうに見下ろす沙羅。
何か言いたい事があったのではないだろうか。
ほんの少し戸惑いつつも、大好きなマルコに触れられるのは嬉しい。マルコが触れたいと思ってくれるなら、と、されるがままの沙羅。
「沙羅・・・」
耳に届くマルコの声はどこか苦しげに揺らいでいた。
自分とイゾウに何かあったらと不安に感じているのだろう。
人のことは言えないが、家族を自分以上に大切にしているマルコなら、心配しないはずがない。
そう思った沙羅は、思わずマルコの頭を包むように抱き締めた。