第16章 決戦のハレム島
誰も言葉を発しなかった。
部屋が監視されていることに気づかず、沙羅の正体を知られてしまったことへの自責の念、怒り。
イゾウの調べにより、かやが昨日死んでしまったことへのやるせなさ。
沙羅の親の敵がゾイドだという、まさかの可能性。
そして、今、まさにその可能性を見出しながら、聞く相手を失ってしまった沙羅。
拳を握り締め、体を微かに振るわせ何とも言い難い表情でヒョウの死体から目を逸らさない沙羅。
「沙羅・・・」
その手をマルコが包むように握った。
強く握り締めた拳は爪が食い込み、血が滲んでいた。
「・・・」
沙羅は自分の手が傷ついていることにすら気づかずに、ぼんやりとマルコを見上げた。
“握るなら俺の手を、不死鳥だからよい”
そんな沙羅をマルコの目が優しく諭す。
「・・・っ・・・」
瑠璃色の瞳が大きく揺らめいた。
堪えきれない透明な雫が一粒こぼれた。
それでも気丈に頷いた沙羅に答えるように、マルコは撤退の指示を出した。
かやの遺体にイゾウが上着をかけ、ジョズが抱え上げる。
沙羅によって開けられた穴に用意されたロープ一本を支えに素早く上がっていく隊長達。
最後に残ったのはマルコと沙羅。
「「・・・」」
二人は示し合わせたように頷き合った。
すると遠くから轟音が轟いた。
死体を放置するわけにも、このおぞましいゾイドの隠れ家もこのままにはしておけない。
沙羅の力によって導かれた海水が全てを洗い流すが如く、地下港から入ってくる。
マルコが手を翼に変えた。
「離すなよい」
「うん」
小さく頷き返した沙羅。
肩を支えに首に回された腕に、密かにこそばゆい気持ちを感じながら舞い上がるマルコ。
その足元を海水が流れていった。
モビーディック号に戻ったマルコ達は、そのまますぐに出向準備に取り掛かった。
マルコは白ひげの元へ向かい事の顛末を。
出向の準備はサッチが取り仕切る。
そして、沙羅は数少ない女性の船員達と共にかやの体を清め、弔いの準備を行っていた。
「どんなに痛かったか・・・」
いつもは毒舌ナースのシルビアが言った。
「苦しかったでしょうね」
女伊達らにキッチンを取り仕切る料理長にして、ビスタの妻、カレンが涙を滲ませた。