第3章 偉大なる双璧
マルコが自身の欲望と葛藤していることなど、無論露知らず。
沙羅は海に囲まれた安堵感から、両親に固く禁じられていた“力”を無意識に解放してしまう。
「♪~♪ーーー♪♪~~♪♪♪~~」
“しゃら・・・シャラリ・・・しゃらシャラ・・・”
湧き上がった欲望を静めようと沙羅から視線を逸らしていたマルコの耳にも、その音は微かに届いた。
“?”
三度(ミタビ)耳にする音に
マルコは、
沙羅を、
ゆっくりと、
見た。
月へと伸ばされた沙羅の左腕。
その腕から何かが月へと昇っていた。
それは月光を受け、時折きらきらと煌めきを放つ。
“!?”
水が、
流れていた。
海水が吸い寄せられたかのように、海面から一本の柱を作り、
沙羅の足を通り、体を通り、月に伸ばされた手を抜けて昇っていく。
“しゃら・・・シャラリ・・・しゃらシャラ・・・”
「~♪♪♪~ーー♪ーー♪~」
絶え間なく聞こえる、高く澄んだ清らかな音と、幸せそうに歌う沙羅の声。
「・・・」
湧き上がっていた欲望が霧散する。
儚くも美しく、神々しささえ感じる光景に、マルコの目に自然と涙が滲む。
心が洗われ、浄化される。
“守ってやりてぇ”
ふと、マルコの心に芽生えた感情。
彼女が、沙羅がいつでも幸せでいられるように、その身を、心を、守りたい。
その感情はマルコを大きく成長させ、
後に白ひげ海賊団一番隊隊長、不死鳥マルコの名を轟かせる原動力となるのだった。