第16章 決戦のハレム島
二人には経験があった。
この揺れが何を意味するか。
最早一刻の猶予もない。
「おい?」
悪魔の実の能力をいきなり発動したジョズにイゾウは
訝しげに声をかけた。
それに答えたのはナミュールだった。
「海が悲しんでいる、もうすぐ、巨大な波が来る」
「・・・沙羅・・・か?」
頷くナミュール。
その横で、ジョズが壁をぶち抜くのと、マルコ達がかけ込んで来たのは同時だった。
「沙羅!!」
マルコの声が部屋に空しく響いた。
ジョズは無言で穴の先を示した。
迷うことなく走り出すマルコ。
その後ろをイゾウ達が追う。
部屋に突き当たったマルコは容赦なく扉を蹴破った。
「沙羅!!」
そこにはまっ青に染まった瞳から涙を流す沙羅と、腹の辺りを真っ赤に染めたヒョウが横たわっていた。
マルコはヒョウには目もくれず、沙羅に走り寄った。
そのマルコを沙羅の体から発せられる、海の波動が容赦なく襲った。
悪魔の実の能力者のマルコに取ってはそれは、想像を絶する激痛だ。
だが、マルコは顔色一つ変えずに呼びかけ続けた。
しかし、その身を目に見える程に強力な水のベールで覆い、外界の全てを拒絶している沙羅にはマルコの声すら届かない。
マルコの目にも、死体の山や、足のない死体が見える。
何が起こったのか、すぐにわかった。
あの日のことを思い出している、いや、あの日にいるのだと。
「沙羅・・・」
全身を青白く光らせて、僅かに浮きながら泣いている沙羅にそっと手を伸ばす。
その手を、容赦なく切りつける波動。
流れ出す血。
海の力を浴び続けるマルコは、不死鳥の能力が発動できない。
鍛え上げた己の肉体と、武装色の覇気だけがマルコ自身を守る術だ。
「マルコ!」
悪魔の実の能力者のマルコには、沙羅の力は猛毒のようなもの。
ラクヨウは思わず、止めようと声を上げた。
だが、振り返ることなく首を横に振り、また一歩足を進めた。
歯がみするラクヨウの肩にサッチの手が乗せられた。
「無理だ、マルコしか」
変われるものなら変わってやりたいのはサッチも一緒。
だが、心を閉ざしてしまった沙羅を呼び戻せるのはマルコしかいない。
サッチも、ジョズも、ビスタも、そしてイゾウもわかっていた。
もし、
呼び戻せなければ、
“世界が崩壊する”