第16章 決戦のハレム島
ヒョウは、さらに囁いた。
「沙羅と言ったね、君もこうなりたくはないだろう?」
言いながら、美しい黒髪に手を伸ばす。
きっと、
この女は、
ゾイド様を、
長く満足させる。
不思議な色の瞳。
美しさの中に残る、
幼さという透明感。
吸い付くようにしっとりしとした肌。
白い肌は、さぞかし、朱が生えるだろう。
ゾイド様の物だという所有印。
何より、この程よく引き締まった足はゾイド様の好みだ。
そして、不死鳥マルコの恋人。
先ほど、オーナーから処女だと報告を受けていた。
あの不死鳥が、手を出さずに大事に大事にしているのだ。
さぞかしその思いは深いに違いない。
沙羅を人質に、一人呼び出し、殺そう。
もちろん、白ひげ海賊団の秘密を洗いざらい話して貰おう。
いかに冷静沈着で、頭のきれる男でも、愛しい女の命を盾にされれば屈する他ないのだ。
今まで何度も何度も、そうして、強者と言われた者を従わせてきた。
ヒョウはその時を思い、笑った。
そして、最後の仕上げにと、囁く。
「もし抵抗したら、不死鳥もあの山の中に入ることになるよ」
ぴくりと沙羅の体が震えた。
ヒョウは、悪魔のように微笑んだ。
沙羅を捕らえたと、確信した。
“・・・マルコが死ぬ?”
過去と現在の狭間で、揺れていた沙羅の耳に届いた言葉。
声の主が誰かなど最早わからない。
ただ、
少年の面影を残すマルコが
消えていくのだけが、
見えた。
嫌・・・
嫌だ・・・
父も母も死に、
その上マルコまでも
死んでしまった。
いらない・・・
こんな世界・・・
イラナイ・・・
父も母もいない世界など
イラナイ・・・
マルコがいないなら・・・
コワレテシマエバイイ・・・
瑠璃色の瞳から透明な雫が流れる。
コワシテシマエ・・・
瑠璃色の瞳が、真っ青に染まった。
“沙羅!!”
少し離れた所から、マルコが自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
だが、絶望に染まり、心を閉ざしてしまった沙羅の心にマルコの想いは届く事は、なかった。
一方、部屋のからくりを探していたイゾウ達もまた、異変を感じていた。
部屋が、いや、床が、大地が微かに揺れ始める。
「・・・何だ?」
イゾウやブレンハイムは辺りを見回した。
ジョズとビスタは、顔を見合わせて頷いた。