第16章 決戦のハレム島
折り重なる死体の山。
人間も魚人族も、男も女もいるだろう。
そして部屋に溢れる、むせ返るほどの鉄のような、血の臭い。
部屋中に、天井にさえ赤黒くこびり付いた血。
その上に比較的新しいのだろう赤茶けたそれ。
そしてまだ温かみさえ感じる鮮血。
その先に転がる一糸まとわぬ姿の女の死体。
女の体には赤紫色の痣が多数あった。
そして、
“左膝から下”が、
なかった。
よく見れば折り重なる死体の山の女達も左膝から下がない。
「・・・」
その光景は、
沙羅を、
あの“悪夢など生温い一夜”へと
呼び戻した。
ここは一体どこだっただろうか?
自分は何故ここにいるのだろうか?
目の前に転がる女の体と
凌辱された母の体が重なった。
左膝から下がない女の体と、
死してなお、辱めを受けた母の体が重なった。
ぐるぐると、
あの日の光景と
目の前にある光景が
回り、
混ざり合い、
重なった。
瑠璃色の瞳が
絶望に染まり、
何も映さなくなる。
ここは、
今日は、
母と父が殺された日だ。
微動だにしなくなった沙羅の背後に、白い衣を纏ったヒョウが、残酷な笑みを浮かべて立った。
そして、沙羅の耳に囁いた。
「残念だったね、かやは昨日死んでしまったよ」
言いながら鮮血を纏っている女を差した。
「部下が、余計な事を言ってしまってね」
沙羅の頬に軽く手を当て、顔の向きを変えた。
その先には最早原形を止めていない、男であったであろうもの。
男は、“善意”でかやに告げた。
フェイクが既に死んでいる事。
だから、無理に抱かれる必要はないのだと。
隙を見て逃げろ、と護身用に小さなナイフまで渡した。
全ては、哀れなかやを助けてやりたい、その思いからだった。
だが、フェイクを失ったかやは、抱かれるふりをして、ゾイドを襲い、
命を、
落とした。
かやがゾイドを襲おうとしたのがあと一日、後ならば、助かったかもしれない。
男が告げたりさえしなければ、かやは助かったかもしれない。
だが、流れる時は残酷に過ぎ、止まることはないのだ。
ヒョウは、無抵抗の沙羅を見下ろした。
想像以上にショックだったようだ。
仮にも白ひげ海賊団の一員、
用心に用心を重ねて沙羅を捕獲する計画を練った。
この光景に恐怖を感じない女はいない。
恐怖は、
体を、
支配する。