第16章 決戦のハレム島
その頃、沙羅達もまた、似たような光景を見ていた。
血塗られた部屋に、放置された死体。
先頭を行くジョズもいつもの豪胆な様子を潜ませ、僅かに顔を顰めている。
しんがりを務めるイゾウも、顔色こそ変えないがさすがに心をざわつくのを押さえられない。
そして、沙羅はマルコが案じたように誰よりも動揺していた。
“なぜ、こんなことができるのだろう”
心が苦しくなった。
誰もが、嫌な気分になっていた。
隙はほんの僅かだった。
いや、隙というよりも運命の悪戯のようなもの。
部屋を確認し、出る。また次の部屋へ入る。
もちろん、ジョズもイゾウも部屋を出る順番にも、気を遣っていた。
たまたま、部屋の構造上、沙羅が最後になった。
悪魔の頭脳の男、ヒョウは静かに待っていた。そのチャンスを。
沙羅が扉の手前まで来た時だった。
『助けて・・・』
と、か細い声がした気がした。
振り返った沙羅の視界の端を一瞬、白い衣のようなものが横切る。
咄嗟に追いかける沙羅。
それをすぐに追うイゾウ。
が、音もなく目の前を羽衣のような布がイゾウを遮った。
「っ!」
バサッと布を腕で払った。
その間、一秒あるかないか。
だが、沙羅は消えていた。
「沙羅!!」
イゾウは大声で呼びかけた。
ジョズも、他の隊長もすぐに気がつき、戻ってきた。
だが、沙羅は跡形もなく消えていた。
白い衣を追いかけ、ふと違和感に気づいた。
この部屋はこんなに広かったか、と。
ハッと振り返れば、まさに自身の後ろに広がる部屋が見えなくなっていくところだった。
はめられたのは、すぐにわかった。
だが、直感的にこの通路の先に何かがあると感じていた。
沙羅は自身の体に水のベールを纏い、ゆっくり回りを見渡しながら歩き出した。
イゾウやジョズならば、すぐにこのからくりに気がついてくれるという信頼もあった。
何より、マルコも近くにいる。
だからこそ、大丈夫だという絶対的な安心感が沙羅を大胆にさせていた。
程なくして、今まで見てきた物とは異なる赤茶けた扉のついた部屋に突き当たった。
開けた途端に待ち伏せされているかもしれない、身構えながらゆっくりと扉を開けた。
そこには、
悪夢など、
生温い、
光景が、
広がって・・・いた。