第16章 決戦のハレム島
「・・・」
マルコも油断なく見回しながら足を進める。
時々、血がこびりついた部屋や、拷問したまま放置された死体が転がる光景に、胸糞が悪くなる。
立場上、望まない殺しや、拷問を行うこともある。
だが、その遺体を放置するよう真似はしない。
死者の遺体は弔いの思いを込めて海に還すのが、白ひげ海賊団の流儀だ。
「嫌な感じだな」
サッチも思うところは同じなのだろう。
顔を顰めながら、“また”放置された死体のある部屋から出てきた。
誰もが嫌な気分になりながら足を進める。
そして、天井が高く広い空間に突き当たった。
海が洞窟の中に入り込み、静かに揺れる。
一目でこの場所が何に使われているかわかった。
これだけ広ければ、ゾイドの本船も出入りができるだろう。
「逃げられたかな?」
海からは見えず、土地の高低差を巧みに利用して作られた港を見渡しながらハルタが言った。
「・・・」
ハルタの問いには答えず、マルコは頭を巡らせた。
恐らくゾイドはもう、いないだろう。
だが、誰もいないとしたらイゾウを何のために捕まえたのか。
血塗られた部屋や、放置された死体。
あの頭の切れるヒョウがわざわざ証拠を残して行くだろうか。
何のために、
“わざと”
残した?
「・・・」
マルコの胸にじわりじわりと嫌な予感が広がっていく。
この胸糞悪い光景に動揺するのは誰だ?
ヒョウは何故、自分にあの悪意を向けた?
何故、危険を冒して自分達の前に姿を現した?
「・・・」
マルコの頭の中で、次々とパズルのようにはまっていく疑問の答え。
自分を含め隊長達は、この程度では驚かない。
ゾイドの残虐性、性癖。
フェイクとかやがそうだったように、ゾイドは他人のモノを横取りし苦しめる事を好む。
あの悪意を向けられた時、自分はどんな目で沙羅を見ていたか、それは自分が一番よくわかっている。
沙羅を見下ろしていたヒョウの目。
あの目は値踏みしていた。
沙羅が、
ゾイドの、
好みに合うのか
否か・・・。
狙いは、沙羅だ。
マルコは後ろを振り返った。
“沙羅!!”