第16章 決戦のハレム島
そして黒いカーテンからむき出しの壁になった部屋にある扉を開けた。
「・・・」
冷んやりとした湿った空気に、無機質なコンクリートに覆われた空間が、この場が地下だと物語る。
右も左も長い通路。
さて、どちらに行こうかと視線巡らせた直後だった。
天井が揺れ始め、不気味な重低音が響いてきた。
“?”
訝しげにイゾウが顔を上げた瞬間。
文字通りぶち抜かれた天井から瓦礫と共に、大量の水が降ってきた。
瓦礫はよけたが、大量の水は避けきれない。
“おい、二度目じゃね~か”
それでも、その穴から飛び降りてくる仲間達に、余裕の笑みを浮かべて迎えるイゾウは、まさに、水も滴るいい男だった。
「イゾウ!」
最初に声をかけたのはマルコ。
実は、サッチを残して去った後、イゾウはマルコにだけは、狙われるとしたら自分であろうと話してあった。
マルコとも沙羅とも一緒にいるのを見られている、反面、白ひげ海賊団の密偵のようなイゾウは顔が知られていない。
捕まえて、取引材料にするにはちょうどいいと思われるはずだと。
もちろん危険を承知で練り上げた計画に、マルコは難色を示した。
だが、イゾウは『沙羅を泣かせるようなことにはしねぇ』とマルコを説き伏せ、自分を餌にしたのだった。
イゾウを睨むように見るマルコ。その瞳の裏には仲間を思う気持ちが隠されている。
それには気づかないふりをして、肩に手をかけ囁いた。
「手ぇ、出してねぇだろうな」
もちろんそれが何を差しているか気づかないマルコではない。
少し眠たげな、それでいて鋭い目つきに戻ったマルコ。
「楽しませてもらったよい」
にやりと笑い、そこでイゾウから離れた。
「イゾウ隊長・・・」
泣きそうな顔で近づいてくる沙羅。
イゾウは少しだけ困ったように笑い、頭を撫でた。
「悪かったな、心配かけて」
その優しい表情に声音にラクヨウ達は、背中を向けた。
常に斜に構えているこの男も、妹、いや沙羅にだけは甘い。
それがどうにもこそばゆかった。
沙羅がイゾウの無事を確認し、服や床の水を消し終えればマルコ達は二手に分かれた。
マルコやサッチ達は右手に、イゾウや沙羅達は左手に向かった。
「静かだな」
サッチの声だけが通路に響く。
一部屋一部屋確認しながら進んではいるが人っ子一人いない。