第16章 決戦のハレム島
「知らない」
「沙羅」
マルコの声に沙羅の手が動く。
オーナーの睫毛が揺れる。それでも目を閉じないのはさすがであろう。
「っよせ!あの部屋は地下からしか開かない、本当だ!」
地下の事は見ざる聞かざる言わざる。それが長生きする術だとオーナーは知っていた。
「そうかい、なら、話は早い」
マルコは笑った。
「ビスタぁ!」
「承知」
離れた所で控えていたビスタに合図を送れば、ビスタは剣を一閃させた。
薔薇の花が舞うように優雅に、しかし、その破壊力は圧巻だった。
一階の壁を破壊し、享楽に溺れていた人々を一気に現実の世界に引き戻す。
あっという間に出入口、そして今開いた壁の穴に人々が殺到する。
大パニックになった店内を一階に潜んでいた隊長達が巧みに誘導する。
「どうするつもりだ?」
オーナーは訝しんだ。
地下に行く方法がわからない今、イゾウを救う術はないはず。
だが、隊長達に焦りは見受けられない。
唯一不可解なのは沙羅の動き。
近くにあった水道に手を添え、目を閉じたまま微動だにしない。
沙羅の強大な力は海だけに止まらない。
自身も海神族のことを知らないために、それが普通なのか、否かはわからない。だが少なくとも沙羅は海に元を置くもの、そしてあらゆる水を操ることができた。
「イゾウ隊長!」
ふと、沙羅が顔を上げた。
水道管を流れる水を伝い、地下に見つけたイゾウの気配を沙羅は確かに感じ取った。
迷うことなく、歩を進めイゾウが消えた部屋の一点に立つ。
「悪いな、あんたはお休みだ」
サッチの声と共に鳩尾に衝撃が走り、そこでオーナーの意識も、後ろでどうすることもできずに突っ立てていた男達の意識も途絶えた。
沙羅の力を知られるわけにはいかないのだ。
「水よ、我が身を阻みしものを打ち砕け」
瑠璃色の瞳が、
青く、
輝いた。
時は少し遡る。
ルイに導かれ部屋に入ったイゾウは、無論ルイと絡み合った。
正直、沙羅以外の女に触れるのも触れられるのも不愉快だが、仕事と割り切ればどうということはない。
ルイの喘ぐ声にも、体にも興奮はしないがたまった欲を解消するのも一興だ。
そう考えられる程、イゾウは冷静だった。
暫くして、異変は現れた。
体の自由がきかない。
そんなイゾウの耳にルイは心底残念そうに囁いた。