第16章 決戦のハレム島
“ごめん沙羅ちゃん、今は助けられない”
今は水揚げ中。初めての花魁を抱く側の人間、しかも一般的には悪の限りを尽くす海賊だ。
『ごめん、少し耐えて』
小さく囁くや否や、沙羅の目をサッチの大きな手が覆った。
「!ッヤ・・・!!」
サッチの手から、
露わになった肩に触れるマルコの唇から、
逃れるように沙羅が初めて抵抗の言葉を口にした。
それでも、健気に震える体を抑えながら必死に耐える沙羅。
マルコの唇が肩口、鎖骨と移り、遂に微かに覗く胸元に触れた。
いや、触れた“ように”見せかけた。
“あのな・・・ここまでやって躊躇すんなよ”
サッチはほっとしつつ、突っ込んだ。
「沙羅、・・・・・・よい」
サッチの耳にも、マルコが何といったのかわからなかった。
ただ、あんなに怯え、強ばっていた体からふいに力が抜けた。
そして、マルコはゆっくりと自身の上着を脱ぐと無造作にそれをベッドに投げ出し、急に入り口側に歩き出した。
「悪いねぇ、お楽しみはここまでだよい」
密かに覗いていたオーナーに詰め寄った。
幾多の戦いを切り抜け、鍛え上げられた肉体はそれだけで刃物ような鋭さを放つ。
そこに、オヤジの誇り、白ひげ海賊団の象徴が堂々と存在している姿は、裏の稼業のオーナーとて恐れずにはいられなかった。
「ッヒッッッ・・・」
と小さく叫ぶと脱兎のごとく逃げ出した。
マルコは小さくため息をつき、沙羅の元へ戻ると先程とは比べ物にならない優しい手つきで乱れた着物を直し始めた。
「悪かったよい」
言葉は発せずとも、首を横に振りマルコにされるがままに身を任せている沙羅。
そんな二人をサッチだけが冷静に見下ろす。
“沙羅ちゃん、こいつマジだったからね”
と思うも通じるはずもなく。
マルコの手によって着物を整えた沙羅を見張り役に、マルコとサッチは部屋を探り始めた。
隠し扉か、そのスイッチがないか隈無く探す。
が、期待に反してそれは見つからない。
もちろん各部屋に仕掛けがあるとは限らない。
それは承知の上だったのだが、あのヒョウという男がマルコ達の動きに気づかないはずもない。
何かしら仕掛けてくると思っていたのだが、拍子抜けしてしまう。
その時だった。
プルプル・・・
子電伝虫が鳴り、すぐに切れた。