第16章 決戦のハレム島
頭の中では、身勝手な感情だと理解している。
でも良き兄、良き幼なじみと思っていたサッチだからこそ腹が立った。
それでも嫌いにはなれず、罵ることもできず。
そんな時に耳に届いたサッチの声に思わず頭に浮かんだ言葉。
「・・・サッチの馬鹿ぁ!!」
言うや否や、サッチの元から逃げ出す沙羅。
その後ろ姿を目を見開き見送った後、にやける顔を抑えられなくなるサッチ。
我等の妹のなんと可愛いことか。
怒るに怒れず、罵る言葉も見いだせず、言うに事を欠いて『馬鹿ぁ!』とは。
まるで小さな子供だ。
穏やかな性格に、凛とした立ち振る舞い、でも中身は時々少女を思わせる沙羅。
本当に微笑ましい。
思わぬ反応にサッチは肩を震わせた。
きっと、明日は上手く行くに違いない。
真面目な彼女の事だ。
男慣れした遊女らしく振る舞おうと、健気に奮闘するに違いない。
その姿はさぞかし危うく、自分達の、いやマルコの心を翻弄するに違いない
“明日が楽しみだ”
やられたままは性に合わない。
自分がそうなったように、
明日はマルコが、
沙羅の反応に身悶えればいいと、
サッチはニヤリと笑った。
翌日の夜、イゾウは約束通りルイを訪ねた。
『イゾウさん!』嬉しそうに言いながらイゾウの横に腰を降ろしたルイ。
暫し二人だけの時間を楽しんだ後、イゾウは切り出した。
「なぁルイ、オーナーに話があるんだが呼んでくれねぇか?」
今まさにナイトルームに誘おうとしていたルイは、ほんの少し焦れたようにしながらもすぐにオーナーを呼んだ。
人好きのする、だが、一癖も二癖もありそうなオーナーが『イゾウ様、今宵もご贔屓を賜りまして』と現れた。
イゾウが手短に用件を伝えると、微かに目を見開いた。
得体の知れないイゾウの豪遊ぶりに、多少の警戒はしていたようだが、まさか白ひげ海賊団の隊長2名。
しかも不死鳥マルコと双剣のサッチというビッグネームが出てくるとは思わなかったらしい。
それでも金さえ払ってくれれば客は客だ。
ましてや、白ひげ海賊団、金は唸るほどあるだろう。
二つ返事で了承し、好色じみた視線をイゾウが示した方に向けた。
その先にはマルコとサッチ、そしてイゾウの手によって花魁に化けた沙羅。
結い上げた髪を彩る簪の数々。
艶やかな打掛。
うなじを大胆に覗かせながらも前は僅かに着崩すのみ。