第15章 ハレム島に巣くう闇
お互いに何を思うか、わかってしまうから。
身を滾るような欲情と、
腸が煮えくりかえるような激しい嫉妬。
そんな思いにまみれた顔は、お互いに見られたくなかった。
それでもいつまでもそうしているわけにはいかない。
イゾウは自身の腕を軽く揺らし『沙羅』と離れるよう促した。
「ごめんなさい」
困らせたと思い、謝る沙羅の頭を撫でると、イゾウは小梅に目配せした。
ソファに腰掛けた四人(小梅は僅かに浮いているが)。
先程イゾウに話したことを絡めながら語り出す小梅。
遊女としてこのホテルに出向き、その客によって命を絶たれたこと。
海に捨てられた体は海王類に食い散らかされ、次々と投げ込まれる死体は負の連鎖となり、魂はどこにも行けない。
だから、小梅の出身地である和の国に伝わる海を守る者をずっと待っていたのだと。
そして待っていた気配をその身に纏ったイゾウが現れて助けを求めたこと。
自我を失っている女達が、イゾウを襲ったこと。
そして不思議な力によって女達が退けられたこと。
あの時、イゾウを包み込んだ青白く冷たい光は亡者と化した女達を一瞬で退けると跡形もなく霧散した。
その圧倒的なパワーと神々しい光は、小梅が想像していたよりも遙かに凄まじいものだった。
小梅は沙羅に深々と頭を下げて言った。
『お願いです、私達を助けて下さい』と。
しかし沙羅は小梅をじっと見つめたまま。
縋る思いの小梅は焦りながら、沙羅にもう一度声をかけようとした。
それをマルコが静かに制した。
『今お前ぇを見てるよい』
意味のわからない小梅は、しかしマルコに頷いた。
するとマルコはニヤリと笑うと、小梅にいくつかの疑問を投げかけた。
誰に殺されたのか?
何故殺されたのか?
どこで殺されたのか?
その問いに小梅の体が恐怖に震えた。
「わ、私を殺したのは・・・」
その時を思い出したのだろう。薄らと涙を浮かべながら小梅は口を開いた。
「悪魔王ゾイド、殺された理由はわかりません・・・ただ、気に入らないことがあって・・・わ、私の首は折られました」
小梅は、ライが死んだと報告を受けた時にゾイドの相手をしていた女だった。
「殺された場所はわかりません、地下だとは思います」