第15章 ハレム島に巣くう闇
沙羅の様子に、小梅は唇を噛み締めた。
弁解の余地はない。自分達がイゾウを襲ったのは事実だ。
同じ海に漂う自分達は運命共同体。
小梅は女達。
女達は小梅でもあった。
もう、助けては貰えまい。
小梅は自分達のしでかした事を詫びようと深々と頭を下げた。
が、意外にも小梅を制したのはイゾウだった。
「よしな」
短く言うと沙羅に笑いかけたイゾウ。
「沙羅、この通り俺は無事だ、問題ねぇ」
「でも・・・」
沙羅が納得できないのも無理はなかった。
ホテルに漂う人ならざる気配に不安を感じた沙羅は自身の力を封じたお守りを渡していた。
それは人間には反応しない特殊な物で、かつ命の危機に曝されない限り発動しない術だった。
それが反応したのだから、そういうことだと思わないはずはない。
そんな沙羅にイゾウはくつりと笑い、ジャケットの内ポケットからお守りを出した。
「これが守ってくれたさ」
「!」
沙羅の後ろで状況を把握しようとしていたマルコは目を見開いた。
マルコも腰帯に潜ませているお守り。
それと対照的にイゾウのお守りはずたずたに破けていた。
沙羅の力を知るが故に、それがどれ程危険な状態だったか理解し、僅かに動揺するマルコに“口出すなよ”と目配せし、イゾウは言葉を続けた。
「なぁ沙羅、ここは一つ俺の顔を立てて、こいつの話を聞いてくれねぇか?」
ずたずたのお守りを握り顔色を変えた沙羅を宥めるように言うイゾウ。
「・・・本当にご無事なんですか?」
言いながら、大胆にもイゾウの少し開いたシャツから覗く胸板に手を触れた。
その表情に羞恥は一切ない。
「「・・・」」
マルコの目が僅かにイゾウを睨み、微かに喜びと欲が滲んだイゾウの目がマルコを見た。
そんな二人のやり取りには気づかずに、気流、血流を確認した沙羅はゆっくりと手を離し・・・。
お守りを差し出したまま固まっていたイゾウの腕にぎゅっと抱きついた。
「よかった、ご無事で、本当に・・・」
柔らかな、
沙羅の胸の感触が、
イゾウの腕に、
心に、
伝わった。
「・・・」
イゾウは素早くマルコから顔を背けた。
「!!」
マルコの表情から感情が消えた。