第15章 ハレム島に巣くう闇
大人になり、海からの声を聞くことも聞かないこともコントロールできるようになった沙羅。
にもかかわらず、声を感じると言うことは余程のことなのだろう。
マルコには沙羅がどのように海の声を感じているのか窺い知ることしかできない。
だが『海が泣いている』と涙を流したあの日。
恐い声がすると、瞳に涙を浮かべながらマルコのベッドに潜り込んで来た日(その時は理性を総動員)。
苦しそうに寝込んだ日。
それらを思えばどんなに悲痛や恐怖、苦痛を伴うか僅かではあってもわかっているつもり、いやわかってやりたいと思っていた。
マルコは沙羅の手を取ると恋人同士がするように、指と指を絡ませて言った。
「恐ぇならそばにいる、苦しいなら無理しなくたっていい」
「・・・」
沙羅は言葉を発する代わりに、自分からも指を絡ませた。
「お前ぇが暴走しても俺が必ず止めてやるよい」
「!!」
マルコは沙羅が何を一番恐れているかわかっていた。自分の事よりも家族を優先する沙羅だからこそ、家族を傷つける事を恐れているのだと。
沙羅はきゅっとマルコと絡めた指を握った。
そのまま、暫く海を眺めていた二人。
意を決した沙羅がマルコの手を離し、海の声を聞こうとした時だった。
「イゾウ隊長?!」
叫び声とともに走り出す沙羅。
只ならぬ様子にマルコも即座に追いかけた。
普段の礼儀正しさなど全くない。問答無用に鍵を開けて部屋に飛び込み、そこで次いで入って来ようとしたマルコを押し戻した。
「だめ!マルコは」
部屋はどこもかしこも水浸しだった。
しかもむせ返る程の海の匂い。
天井からは海水が滴り落ち、床は水溜まりを作りベッドはぐしょぐしょ。
悪魔の実の能力者のマルコには、過酷な環境だろう。
「・・・」
沙羅の怒りを宿した鋭い目がイゾウの前に佇む女、小梅を捕らえた。
すぐにでも小梅を問い詰めたいが、いつまでもドアを開け放しておくわけにはいかない。
沙羅の手が、無造作に払われた。
たったそれだけ。
それだけで部屋中の海水を消し去った沙羅は、マルコを部屋に促し、小梅に歩み寄った。
「何をしたの?」
普段の沙羅からは想像つかない高圧的で冷たい声にマルコとイゾウは顔を見合わせた。
“怒ってるよい(怒ってるな)”