第15章 ハレム島に巣くう闇
マルコに取っては触ったのと触ろうとしたでは偉い違いだった。
サッチは苦笑いを浮かべて言い直し、男の名前を聞いた。
「ヒョウだ」
「ヒョウ?・・・」
サッチは途端に目を細めた。
「知ってるのか?」
その反応に只ならぬ雰囲気を感じたマルコに、サッチは無言で一冊の手配書のファイルを開いた。
指をトントンと示したその先には、青年に成りたての頃のマルコとサッチ、そしてその間にヒョウが載っていた。
それは手配書ではなく、次世代の極悪ルーキーランキングと題した一枚の記事。
No2 不死鳥マルコ、No4 双剣のサッチ。
その間に割ってはいった男。
No3 悪魔の頭脳ヒョウ。
当時マルコは、ロジャー海賊団にいた頃から密かに意識していた赤髪海賊団の船長に負けたことが悔しくて、ヒョウの記憶はなかったが、抜かれたサッチは鮮明に覚えていた。
“マルコは別格だ”
長い付き合いの中でたった一つ、マルコに言えない思い。でも肩を並べ、隣にいるのはいつだってサッチだった。
だからこそ、マルコと自分との間に入った男を苦々しい思いで眺め、忘れられなかったのだ。
「で?お前の感触は?」
「やべぇ奴だよい」
するとサッチは目を見開き、ふんっと鼻の息を吐いた。
マルコにそう言わせる奴はそうそういない。
悔しさにも似た感情に、心がささくれ立った。
それでもその思いに囚われないのがサッチの良さだ。
すぐにいつもの顔に戻り『他の奴らにも聞いてみようぜ』と、いつの間にか経過した時間をマルコに示すと会議室に向かった。
会議室にはビスタを除く隊長達がそろっていて、思い思いに時間を潰していた。
マルコは号令をかけると、すぐに情報交換を始めた。
ジョズは島の北側は治安がかなり悪く、ハレム島の裏の顔を見てきたらしい。
イゾウや沙羅が見た南側の印象と違い、悪魔王ゾイドの噂通りの悪評を集めてきた。
サッチはちゃっかり花街の女達と意気投合し、暮らしぶりを仕入れてきた。
ここの女達は一般的な花街の女達違い、非常にいい暮らしをしているらしい。
口々に楽しいと語っていた。
ただ一つ気にかかったのは、時々、女が行方不明になるらしいという話だった。
“らしい”と言うのは、誰も自分達の回りでいなくなった者がいないからだ。
にも関わらず、その噂はどの店でも囁かれていた。