第15章 ハレム島に巣くう闇
マルコには、イゾウの気持ちが手に取るようにわかってしまった。
そしてその度量の深さに改めて、尊敬と嫉妬を感じずにはいられなかった。
パエリアを堪能した二人はそろそろモビーディックに戻ろうと席を立った。
レジカウンターには、見事な白髪に真っ白い肌の男が先に会計をしていた。
僅かに待った後、マルコ達も会計をした。
マルコがお金を出した時だった。
『あ、落ちましたよ!』と沙羅の声がして、背後を掛けていく気配がした。
「沙羅!」
マルコはすぐに沙羅を、目で追いながら走り出した。
レジのスタッフから『お客様、お釣り!』と聞こえたが振り返る暇はない。
店のすぐ先の角を曲がってしまった沙羅は視界に捉えられない。
それでもマルコは焦ることなく、道の作りと近くにいると感じられる気配で沙羅を探し出した。
大通りから1本外れた人気のすくない道に沙羅と男が立っていた。
落とし物を受け取った男が、何か言葉を発した。
対する沙羅は、首を軽く横に振り会釈をすると元来た道に戻ろうとした。
その沙羅を男が呼び止めた。
笑顔で『はい?』と応じる沙羅。
その左腕に、男の手が伸びた。
「何か用かよい?」
マルコの手が、男の手を制す。
「・・・いえ、失礼致しました」
男はさして驚いた様子もなく言うと、去って行こうとした。
たが、マルコは男を制した。
その殺気混じりの雰囲気に沙羅は驚いて口を挟むことができない。
「待て、おめぇ名前は?」
「・・・ヒョウと申します」
「そうかい、俺はマルコだ」
「そうですか、お互い楽しく過ごしたいですね」
そういうとヒョウは今度こそ歩き出した。
その背中を油断なく見送ったマルコ。
気配も消え、安全が確認できたマルコは沙羅の腕をグッと掴んだ。
「何もされてねぇか?!」
問いかける言葉だというのに、その口調は強い。
それに比例して有無を言わさずに無事を確認し始めるマルコ。
ヒョウが伸ばそうとした左腕、その肩口、手の平。
そして右の手、腕、肩・・・首。
いつものような優しい手つきではない。
触れられるのではなく、掴まれる感触に戸惑う沙羅。
「何もされてねぇな?」
傷一つない体に安心したのか口調が和らいだマルコに、沙羅はやっと頷いた。