第2章 出会い
白い大きな鯨を、沙羅は目がこぼれ落ちるのではないかというくらい見開いて見上げた。
「大きい・・・」
「あれがロイさんが作った、俺達の船だよい」
後ろに立ったマルコが言った。
すると沙羅は文字通りバッと振り返ると破顔するほどの笑みを浮かべた。
「すごい!すごいよ!ねぇ、見て!マルコ!」
まるでマルコも始めて見るかのように言うと、走り出してしまう。
“だから俺達の船だよい”
苦笑を浮かべたマルコのことなど、何のその。
モビーディック号にかけられた階段を駆け上がり、薄花色(明るくうすい青紫色)のワンピースの裾を翻し、マルコを振り返ると『マルコ早く~!』と手を降った。
やれやれと思いながらも沙羅に手を上げたマルコ。
「いや~あと3歳、いや2歳大人なら、いい眺めなんだけどな」
その横に立ったサッチの視線はワンピースからチラリと見える沙羅の太ももに注がれている。
「てめぇ・・・幼児趣味かよい」
「いやいやいや、沙羅ちゃんすげぇ美少女じゃん、絶対将来有望だろ」
大人になった沙羅を妄想したのだろう、斜め上に視線を上げたサッチにマルコは容赦なく蹴りをいれた。
「そんな目で見てんじゃねーよい!」
「うぉ!あ、危ねぇな」
マルコの蹴りがサッチのリーゼントを掠める。
だが、マルコは舌打ちすると、サッチを見ることなくモビーディック号へと歩き出した。
そんなマルコをサッチは楽しそう見据えた。
“自覚なしかよ”
久々に会った兄弟の変貌ぶりにサッチは驚いていた。
お互い少年の頃から海賊になるくらいだ。まともな育ち方はしていないのは承知している。
それでもマルコの警戒心は半端ではなかった。
白ひげや、モビーディックに乗る兄弟達以外に笑う姿どころか、話すことすら皆無だった。
それが、どうしたことか。今、モビーディック号からこちらを振り返ってはしゃいでいる沙羅を見つめる目は、優しく微かに甘い。
“これからが楽しみだ”
サッチはニヤリを笑みを浮かべながら、歩き出したマルコの後を追った。