第13章 新世界を一人で生き抜いた女
タタタタっと軽やかに駆けてくる足音がした。
「サッチ!死体が消えた!!」
ハルタが怒鳴るよう叫んだ。
「「!!」」
サッチと沙羅は顔見合わせ、ライがいたはずの部屋に戻った。
血は確かに本物の血だった。
臭いを確認したサッチは、はっと気がついた。
床に顔を近づけて始めて目に入る“それ”。
ベッドの下に隠されたビニールパック。
引っ張り出せば、それは輸血用の物。
そこへ、けたたましい足音が響いた。
「隊長!!囲まれてます!!」
「「「!!」」」
“謀られた”と誰もが思ったが、もう後の祭り。
今はモビーディックを、家族を守らなくてはと甲板に向かった。
そこはすでに乱戦状態。
一人一人の強さは大したことはないが、数が多すぎる。
だがそれよりも、今、案じなくてはならないのは一番隊と十六番隊の連中の事だった。
サッチは、ちらりとビスタを見た。
“やれるか?”
“無論”
ビスタが頷いた。
サッチは沙羅とハルタを確認した。
「沙羅!ハルタ!」
その声に視線を一瞬寄越した二人。
「行け!!」
サッチとビスタの一撃が島への道を開いた。
たんっと跳び上がり手摺りに着地した二人。
もちろん眼下も敵だらけ。
舌打ちしたハルタ。
その横で『どいて・・・』生来の高く可愛い声でゆっくりと、だが冷たく言い放った沙羅。
始めて聞いた声音に、思わず横を向きかけたハルタの眼前を巨大な波が過ぎ去った。
そして、ぎょっとしているハルタの腕を容赦なく掴むと、誰もいなくなった砂浜に飛び降りる沙羅。
それを唖然見送るサッチ。
どうやら、俺達の妹はとてもお怒りのようだ。
援軍の途絶えた敵と対峙しながらサッチは苦笑した。
その頃マルコ達は島の中心に向かっていた。
大量の返り血を浴びたらしく、所々葉や岩に血がついている。
「・・・」
足下は海水が所々流れ込み、悪魔の実の能力者であるマルコはかなりの注意を払わざるをえない。
何かがおかしい、マルコもイゾウも感じていた。
「なぁ、この島不自然じゃねぇか」
「あぁ・・・」
これだけ自然豊かな島なのに、動物はおろか、虫一匹いない。
いるのは、まるで干上がった海から逃げ遅れたようにぴちぴちと跳ねる魚のみ。
「そういや、海の気配が強いって言ってたなぁ」
誰がとは言わずとも、それが沙羅のことだと気づくマルコ。