第5章 俺は一般人、彼女はヒーロー
「亜紀斗、私も大好きだよ」
そう言って俺のオデコに自分のオデコをくっつけてきた。
「あと30分、何する?」
「楽しかった思い出を語り尽す」
オデコをくっつけたまま俺たちは話す。
「授業中に寝てる亜紀斗にいたずらするの楽しかったな」
「悪質ないたずらは断固拒否します」
何度も頬杖をしていた腕を引き抜かれて机に顎をぶつけたり、こっそり頬にキスをされたりもした。
「優里が寝てる時、俺はジャージの上をかけてあげたのになぁ」
「でもそのせいで寝てるのバレたもん」
なんて話してると涙は引っこみ、笑いが溢れてきた。
「亜紀斗、体育の時間ボール顔面に当たってた」
「優里はダンクのやりすぎでゴールを壊してた」
「見栄はってブラックコーヒー飲んでむせてただろ?」
「亜紀斗こそ、私に合わせて甘いパフェ食べて胸焼けしてた」
尽きない思い出話が俺たちが過ごした時間の濃さを表す。
「全部含めて亜紀斗が好きだった、直して欲しいこともあるけどね?」
「お互い様だからいいだろ?」
ふと時計を見たら残り2分を示していた。
しっかりと抱きしめあい、優里が生きている事を確かめる。
できるだけ相手の顔を焼き付けていたくて、笑いながらも見つめ合った。
「亜紀斗、今までありがとう」
「優里、今までありがとう」
俺がそう言って彼女がニコッと微笑んで、その時がやってきた。
優里の体が前のめりになり、顔が俺の方へと乗っかる。
そして、背中に回っていた手がすっと解けて下に落ちた。
まだ暖かい彼女の背中が肌に伝わる。