第5章 俺は一般人、彼女はヒーロー
俺は何故だか冷静だった。
本当は分かってたのかもしれない。
あの傷、あの手紙、何かを悟っていた。
彼女の死の匂いに俺は気づいていた。
「外傷は全て治せたのだが臓器がほとんどやられてて…いつ死んでもおかしくない状態なんだ。
優里は最後に君に会いたいと言ったから延命治療を施している。
その治療が続く時間は10時間だ」
そう言いながら俺に携帯を渡してきた。
「優里…?大丈夫か?」
それは優里とビデオ通話で繋がっていて、ベッドで寝ていた。
見た目は普通でとても元気そうに見えた。
「うん…まぁ、ね。早く会いたいな」
「俺もだよ…待ってて」
話してみて分かったが結構キツイみたいで時々顔を歪ませている。
「亜紀斗来るまでに少し寝て休んどくね…待ってるね…」
「うん、後でね!絶対起きろよ!」
カメラに手を振りながら、微笑んだ優里を最後に通話切れた。
「…あとどのくらいで着くんですか?」
「20分ってところかな。心配しなくても大丈夫だ。…10時間のうちはな」
それっきり俺らは会話をしなくなって、俺はずっと優里の事を考えていた。
ヘリが白い建物の屋上に着陸、俺たちも下りる。
「まずは2人で話をしたいだろう?」
案内された扉の前で担任…ではないな。
教授に言われ、俺は頷いた。
扉を開けると、真っ白な部屋の真ん中にある1台ベッドがあってそこで優里は寝ていた。
ベッドの周りにある機械から伸びたいくつもの管が優里の身体に刺さっている。
あまりにも痛々しい様子に目を背けたくなった。
「優里…来たぞ」
「……亜紀斗!良かった、また会えた」
1回呼んだだけで目を覚ました優里はにっこりと微笑んできた。
「大丈夫か?無理すんなよ…」
「大丈夫だよ、ありがとう!!」
俺が優里の手を握ると握り返してくれたが、とても弱々しかった。
部屋の中に充満する死の匂いが俺たちを取り巻いている。
そんな錯覚に陥った俺は泣かないように耐えるのが精一杯だった。
泣いちゃダメだ…優里の最後の願いなんだから。