第20章 おそ松さん〈松野一松〉
少し古びた駅へと降り
改札を抜けると、磯の匂いがした。
『ねえ、一松もしかして海が近いの?』
「ん、あぁ近いかな。行きたい?」
『行きたい!』
「ん」
行きたい!と言えば、分かったと言わんばかりに
もう一度見手を差し出してくる。
その手に自分の手を重ねれば
ぎゅっと握られこっちだと言わんばかりに
手を引かれる。
『今日何で私を誘ってくれたの?』
「あー‥‥愛の逃避行的な?」
一松の口から出た言葉は
想像の斜め上を行くもので
くすくすと笑ってしまう
『なにそれ、随分軽はずみな逃避行ね』
「ヒヒ、言うよね〜」
そう言って肩を揺らして笑う一松の顔は
一歩後ろを歩く私には見えなくて
やっぱり一松がどんな顔をしているかわからなかった
私の瞼の裏にはずっと
電車で見せた屈託のない笑顔が見張り付いている