第19章 おそ松さん《松野おそ松》
季節は変わり
木枯らしが吹いていた校庭には
ふわふわと桜の花びらが待っている
いつもよりきっちりとしたスーツはと身を包み
二週間前とは違う
暖かい陽射しが降り注ぐ屋上で
同じ様にタバコを吸っていた。
フェンスへともたれ下を見下ろせば
まだ早い時間だからだろうか
誰もいない少し寂しげな校庭が見える
3月9日の卒業式
ふう、と最後の煙を吐きだす
ガチャリと言う扉の音に眼を向ければ
肩で息をした、桜色に頬を染めるの姿が見えた
「な、なんでお前」
『やっぱりここにいた。』
ふうと、小さく深呼吸をして
一歩ずつこっちに近づいてくる彼女は
3年前より少し背も伸び
肩まであった髪は、柔らかな春風に吹かれて腰元でふわふわと揺れている
幼くあどけなかった顔も、大人び色気のある美人になっている
ああ、こんなに綺麗になったんだ‥‥
なんて思っていると
眼の前で立ち止まったはもう一度
深く深呼吸をして
『松野先生、ずっと好きでした』
はっきりと聞こえたその声は
一生懸命俺が蓋をしたくすぶった気持ちを
最も簡単に蘇らせてしまう。
〈俺もすきだよ〉そう言えたらいいのに
言えるわけがない
こんな、これから沢山の未来がある
自分の生徒に
「ありがとう、でも俺はお前の先生だから」
うまく笑えない口元を誤魔化す様に
鼻の下を擦れば
は、少し眉間に皺を寄せ
『大好きです!』
大きな目には、下手くそに笑う俺の姿が
じわじわと涙で歪んでいく