第5章 血界戦線《スティーブン・A・スカーフェイス》
ターゲットの娘である
この若い女性の肩を抱き、あたかも恋人の様に
甘い言葉を呟けば
嬉しそうにペラペラと情報をはなす。
馬鹿な女に溜息が出そうになるが
今はまだ〝恋人〟である彼女に
優しい嘘を紡ぐ。
少しお酒を飲みすぎた彼女の肩を抱き
大きい通りに出てタクシーにのせようと
歩いていると前から見覚えのある姿が目についた
コートの上からでも分かるしなやかな身体に
ふわふわと揺れる柔らかな髪
今すぐにでも触れたい愛しい人を
まるで視界に入っていないかの様に通り過ぎる
大通りへ出てタクシーを捕まえると
〝今の恋人〟を中へ詰める
イルミネーションの中
小さくなるタクシーを
見えなくなるまで見つめると
踵を返し早足で家へ向かう。