第2章 皆でわちゃわちゃお正月(2017.正月)
‐赤葦side‐
年末最後のバイトの日。
その日、来店したりらの父から、新年の挨拶に家に来ないかと、お誘いを頂いた。
どうやら、彼がりらを男ばかりのあのシェアハウスに戻した理由の1つが俺の存在だったらしく。
他のご家族にも、良いイメージで興味を持たれているらしい。
その信用を利用しない手はない。
その誘いには有難く乗らせて貰った。
着いた時間が早くて、迷惑かと思ったけど、お気に入りである俺を嫌がる事はなく家に上げてくれた。
意外だったのは、りらが居間にいなかった事。
彼女の性格なら、実家でも忙しなく動いているものかと思っていた。
仕方なく、朝から酒に付き合い、りらを待っていた。
やっと、彼女が顔を出したのは俺が到着してから1時間は経った頃。
すでに帰る気だったようで上着まで着ていたけど、俺の所為で無理矢理着席させられていた。
「…りら、初詣でも行こうか。」
未だに家族が苦手なようで、会話すらしようとしないりらを連れ出そうと声を掛ける。
家族から逃げられると思ったのか、すぐに頷きで返事があった。
急いで片付けをする様で、この家から少しでも早く出たいのが見て取れる。
案の定。
「そのまま、あっちの家に帰りますから。本年も宜しくお願い致します。」
親に対して他人行儀な挨拶をしていた。
りらの実家から出て数分。
「赤葦さん。」
「…何?」
「父と仲が良いのは構いませんけど、いきなり実家に居たら驚くんですが。」
「あぁ、お父さんの方からりらも聞いているかと思って。それに、俺から挨拶にお邪魔しますと言った訳じゃないからね。」
人に意見をする事が苦手なりらの、精一杯の抗議。
先に言っていたら、きっと君は俺が来る前に帰っただろうから、あえて言わなかった事は隠しておく。
だって、他の同居人がいない、りらを独り占め出来るチャンスは滅多に無いからね。