第1章 不器用な恋文【太宰治】
「おいこらクソ太宰。そこにいたかボケ。」
太宰のいそうな場所を手当たり次第に当たっていった私は遂に奴を発見した。川じゃなく居酒屋だったか・・・読みが外れたなあ。
「あり?梢。早かったね。」
「早かったね、じゃねえわボケ。何、職務放棄してんの。何、昼間っから酒飲んでんの羨ましいよ、ねえ羨ましい。」
「飲めば?」
「飲みたいけどねえ!!!!!」
ケロリとした表情で杯を私に向けるこの男は、本当に不死身とか何かだと思う。あちゅし君の心配と苦労とあと私の貸した金返せバカヤロー。
「帰るよ。今日は帰らせない。」
むにぃと太宰の頬を引っ張り引きずる。さすがに重い。
「えっ!何それ!!新手のお誘い!?ようし!!早速宿泊施設(ホテル)をさがs・・・」
「仕事のフルコォォォォス」
「えっ何それ地獄」
え、やだやだ宿泊施設ぅ(ホテル)と煩いこのバカを引きずりみせを出る。
「ちょっと治ちゃああん!!お勘定!!」
「つけておいて!!マダム!!」
「そういって、半年分は溜まってるよ!!!」
おばちゃんの声を背にずるずると横浜の街を引きずって歩く。嗚呼、私は何も聞かなかったことにしておこう。何もなかった風に国木田に苦情対応させとこう。後日胃に穴があいた国木田を見る羽目になるだろうけどそれは全部太宰の所為だしね。
私、知らない。悪いのは太宰。くそぉ、太宰め許すまじ。
私とこれから入院するであろう国木田とおばちゃんに謝れってんだ馬鹿野郎。
「ねえ、怒ってる?怒ってるんでしょう」
「うふふ分かってやってんだとしたらそれはもう殺害されても仕方ないですね太宰君」
「それはいいなあ」
君に殺されるなんて、などと呑気な太宰。バカ、私が殺すわけないでしょ。
「嫉妬」
「は。」
「嫉妬したんでしょう?あの恋文に」
「・・・・・」
何を、言い出すんだ、此奴は。えっなにこれ一遍殴ればいいのそれで万事解決?
「嫉妬してなきゃ私がこまるなあ」
「嫉妬?馬鹿馬鹿しい。こっちはあなたに迷惑被られた被害者なの」
「という割には、敦君から連絡を受けた時凄く焦った癖に。私が怪我をしたのかもって。」
「・・っは!!??そ、そそんなわけないでしょ!!そんな冗談が言えるんだったら、自分で立って言ってよ、恰好つかないわよはは」
「梢、道こっち。」
急に太宰の首根っこをつかんでいた右手が軽くなる。