第8章 青春より黒春ってか?【太宰治】
一体私の何を気に入ったのか。
3年前、私は、友人に連れられて、ある男性のもとへ訪れた。
特徴的な、教授のような丸眼鏡をかけ、口元にほくろがある人。
彼は面倒くさそうに私を見て適当にあしらおうという顔をしていた。というか、そう聞こえた。
(嗚呼、面倒くさい。ただでさえ忙しいというのに。本当にこんな小娘に・・)
私はムッとして云った。
「小娘、って。私と貴方、そんなに歳が変わらないって聞きましたが」
それが転機だったのだ。
何故かはわからないが彼の纏う空気が一気に変わった。
後ろに控える友人の顔を何度も見ている。
友人はニヤリと笑っていた。
彼はほお、とため息をつくと、態度が一変した。
「わかりました。貴方を認めましょう」
今思い出してもわからない。とりあえず何かが彼に引っかかったのだろう。まあこれで、ようやく収入の良い就職先が見つかった。私はそれに安心していた。
とりあえず、大学までは通うことになった。
一般教養やら、知識やらなんやらを身に着けてから特務課に来なさい、それが彼の指示だった。だから私は、常に首席で、トップであり続けなければいけないのだ。何が引っかかったのかはわからないが、とりあえず少しでも努力して、自分を磨こうと。万全な状態で就職しようと。
元々、流されやすい質なのか、私は学祭でもいろいろ仕事を引き受けてしまった。学業に、副職(バイト)、人間関係の形成にと色々無理していたツケが回ってきたのか、私は疲労で倒れてしまった。しかもそのタイミングが悪く、学祭の看板を取り付けるため、高い場所で作業していた時だった。
勿論そのまま地面に落下。特に頭を強く打ち、全治2週間の大けがに。幸い骨折はなかったものの、2週間後には学祭当日である。つまり、全ての作業を放置して入院しなければならなかったのだ。
「ほんっと、世知辛いわぁ・・」
「ふふ、無理してたんだって?馬鹿だなあ」
馬鹿はどっちだ、と内心毒づく。
しかしふと気づいた。私の口元に、可愛く切られたウサギの林檎があるではないか、と。そこで、漸く太宰さんの仕業と気づく。
「ちょ、これ何ですか」
「何って・・。林檎」
「はあ?だから何の嫌がらせ・・ってこれ、私に?」
「ん。それ以外になにがあるっていうんだい?」
太宰さんはそういうと無理矢理口に突っ込んだ。
意外すぎて、しばらく思考が止まる。