第6章 だから貴方はまだまだなんですよ【中原中也】
だが、死んでみるのもまた一興かもしれない。ふとそんな考えが脳裏をよぎる。
殺したのがたとえ裏社会の人間だとしても、その罪深い血に染まった私は立派な咎人だ。
死は逃げることに近い。でも、こんな不条理な世界から逃れられるのなら、どうしようもない世界から目を背けられるのなら、私は今すぐにでも死を選ぶだろう。
今すぐに・・・・死ねるのなら・・・・
「おい」
「・・・・なんですか中原さん」
深いまどろみの中、中原さんの声がぼやけて聞こえる。
嗚呼、貴方は如何してそんな顔をするの。如何してそんな顔を私にむけるの。
「なんで・・・・泣いてんだよ」
「・・・・え・・・?」
何を・・?
中原さんの言葉にハッとして頬に触れる。
私の指についたのは 一粒の滴。
「泣い・・・・」
「何があったのか知らねえ、けどな」
「・・・・・俺を頼れ」
気づくと彼の匂いに包まれる。
ぽかぽかと温かい。心がじんわりと温かくなる。
これが・・・人のぬくもり・・・??
「・・・中原さん、・・・私を・・・・・」
「・・・・・殺して」
どうせなら・・・彼に殺してほしい。
まどろみから覚めさせてくれるのなら、このどうしようもない世界から逃れさせてくれるのなら・・・・
彼のその長く美しい手を私の首に回す。
さあその手で私を殺して・・・・、そう催促するように。
彼の表情は帽子でかくれて窺うことはできない。
私はにっこりと笑った。
「・・・・わかった」
嗚呼これでやっと死ねる。
私はゆっくりと瞼をおろした。
瞼の裏に轟々と音をたてて崩れ去る故郷がうつる。
一面は焼け野原で。泣き叫ぶ一人の少女。
あの美しかった空は赤く染まり、黒々とした煙が立ち上る。
花々は無残に燃え散って、周りには無数の死体と、重火器を手にした黒づくめの男たちが嫌がる少女を無理矢理たたせてひっぱる光景が。
あの少女は・・・・・・・間違いない。
私だ。