第2章 I know you
「………零戦に何かあんのか?」
「兄が乗っていたんです……零戦に。」
「兄貴が……?」
「はい。
特攻で亡くなりましたけど。」
『空神様』に振り返った私は何故か微笑む。
そして『空神様』に自分が持っていた絹の襟巻を差し出した。
「これを貰って頂けませんか?」
「これは……俺が渡したモンじゃねーな。」
「はい。
兄に送ろうと思っていた襟巻です。
でも送る前に兄の戦死公報が届いて……
結局送る事は出来なかったんです。」
一緒に暮らしていた頃の兄の姿が思い出されて私は泣き出しそうになったけれど、『空神様』に気遣われるのがどうしても嫌でグッと耐え笑顔のまま続ける。
「刺繍で兄の名前を入れてあるんですけど……。」
「手前ェは良いのかよ?
俺が貰っちまっても。」
「勿論です。
それで、あの……代わりと言っては変なんですけど
戴いた襟巻は私が持っていても構わないでしょうか?」
恥ずかしくて堪らなかったけれど、私は思い切って言ってみた。
すると『空神様』は私が渡した襟巻を首に巻きながら
「それこそ勿論だな。」
ニヤリと笑ってくれた。