第1章 Praying Night
訳が分からず立ち尽くす私を取り囲んだのは、犬族と呼ばれている種族だった。
犬族は、子供の頃絵本で見た『赤頭巾』に出て来る狼の様な風貌をしていて、二足歩行で言葉も喋る。
突然未知の世界に放り込まれ怖くて怖くて逃げ出す事も出来ず、びしょ濡れのまま泣き続ける私を犬族の皆は優しく迎えてくれた。
食事と暖かい寝床も与えてくれた。
それ以来私は、犬族と一緒にこの森の中で暮らしている。
一緒に過ごして行く内に、犬族の状況が段々と分かって来た。
彼らは本来、統治された集落を持ち文明的な生活を送って居たけれど、オルテという大国に侵略されてその場を奪われたらしい。
生き残った犬族達はこの森へ逃げ延び、細々と身を寄せ合って生きているのだ。
元々が穏やかで協調性が豊かな犬族は戦う術を持たなかった。
だから自分達の不甲斐無さを恨んでみるものの、どうにも出来ないで居る事に忸怩たる思いを抱いている。
この世界にも『戦争』はあるのだ。
その所為で苦しむのは、只平和に暮らしたいと願う人達なのに。
種族の違う私を何一つの蟠りも無く受け入れてくれた優しい犬族の皆を思うと、私の胸は押し潰される様に痛んだ。
それでも穏やかに日々は過ぎ、私がこの暮らしを受け入れ始めた矢先に『空神様』がやって来た。
「ああ!?
何だコリャ。
動物王国かよ?」
遠巻きに零戦を取り囲む犬族を見回して彼は愉快そうにニヤニヤとしている。
そしてその犬族の後ろに隠れる様にして佇む私を見咎めて
「何だ?
一匹だけ毛色の違う奴も居るなあ。
しかも中々の別嬪じゃねえか!」
と一層声を張り上げて笑った。