第8章 第八章
いや…見た目と性格のギャップが。しかし刀剣は皆見た目と中身のギャップをもつ人が多いなと思い伝えるのを止めた、髭切さんの淡い黄色の横髪に触れて撫でる。髭切さんはくすぐったそうに目を細めてピクンと小さく反応すると、触れていた私の手のひらにそっと髭切さんの手が重ねられた。
「髭切さん…?」
「主はこの本丸に来て少しは慣れたかい?」
「慣れた、慣れていないと言えば…慣れないですね」
「おぉ…意外で少し驚いたよ」
「えぇー…そんなに意外ですか?」
「君って人の心を掴むのが上手いからね、悪く言えば八方美人だ…誰構わず簡単に媚びる」
ゾクッと身体が栗立つくらいに明るい笑みと共に発せられた髭切さんの何気ない言葉に、顔と表情があっていないなと思った。けれど私はその空気に呑まれる訳にはいかない為、にっこりと微笑み掛けて真っ直ぐ見つめ返し伝える。
「確かに間違っていませんね。そうじゃないとこの曲者揃いの本丸でやっていけませんし…私も死にたくはありませんので」
「ありゃ…怒らせてしまったかい?」
「まさか…間違いじゃないので怒れませんよ。今だって髭切さんとどうやって仲良くなれるか試行錯誤して考えている最中ですし?」
自信げな笑みで髭切さんを見上げつつ、重ねられた手を下ろすと髭切さんはきょとんとした顔を浮かべていた。
「僕と君が仲良く?あははは!周りから君の話しを聞いていた時に思っていたけど、実に可笑しな人だねぇ…前の主はそんな事を言う人じゃなかったなぁ…寧ろ僕の事を煩わしいとさえ感じていたというのに」
「煩わしいですか」
「自分で言うのはなんだけど、どうでもいい性格だからね。それに物覚えは悪いし…」
「本当にですか?前の主の事は覚えているのに?」
私の問い掛けに笑う声はピタリと止まった。じっと見下ろされながら苦笑いする髭切さんの瞳はどこか悲しそうにも見えた。
「苦手な相手は案外覚えていたりするんだよね…」
「それなら私の事を嫌いになって下さい」
「…君は自虐思考でもあるのかな」
「まさか!寧ろ嫌われるなんて傷付きますけど?でもそれで髭切さんが私を覚えていてくれるのなら…私は耐え続けます」
嫌われるのは辛い、しかし嫌いな人は忘れられないと髭切さんは言うのなら嫌いでもいいから覚えていて欲しいと思うのだ。笑う私に髭切さんは表情を崩して「君は面倒な人だよね」と苦笑いして呟いていた。