第8章 第八章
刀だった頃の記憶…そう大切な元主が目の前で殺されていくのを見て良く耐え切れるなと思う。私が刀ならどうだろうか…助けてしまうかも知れない。しかし記憶がないというのもまた寂しく思える。どちらがいいのか分からなくなった。
「もっと頑張らないと駄目ですね…歴史を守る為に」
「おんしゃがそう望むなら、わしは着いて行くだけの事ぜよ。まぁ…無理はいかんきに」
そう高らかに笑った彼の言葉に、私もはいと笑い返して頷いた。
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打粉をぽんぽんさせ終わった時間を見ると、もう夕方になっていた。もうそんな時間かと手入れ部屋から出て行く。大和守くんに出会うとすぐさま私に何度も謝っていて、加州くんは苦笑いで宥めていた。隊長だから気にしていたように見える、私はぽんぽんと頭を撫でながら大丈夫だと頷いた。
「そこまで気にしなくても大丈夫だよ、寧ろ犬猿の仲だった二人を一緒にさせてごめんね?」
「ちが、主が悪い訳じゃないよ!僕がもっとしっかりしていれば…」
「大和守くんはしっかりしているよ?また今度隊長を頼むつもりだし…」
「えぇー…今度は俺がいいよ主」
「別に加州くんでもいいよ?」
というか陸奥守さんより蜂須賀さんの方が良かっただろうかと今更ながらに思った。といってもこれで良かったのかなと思えてしまう私は、やはり駄目な主だろう。人付き合いというか刀付き合いというのは難しいものだと考えさせられる。
「そういえば、堀川くんは?」
「あぁ、確か家事の手伝いに向かったと思うけど…確か洗濯物を片付けて来るって」
「…仕事師だね。ちょっと手伝いに行って来るよ」
帰って来た堀川くんだけには任せておけない、私は二人に手を振って堀川くんがいる場所へ向かった。畳に先ほどまで干してあった衣をてきぱきと畳んで行く姿を見る、私が声を掛けると堀川くんは人懐っこい笑顔と共にどうしましたか?と訪ねてくれた。
「いや、私も手伝おうかなと思って…ありがとう。帰って来たばかりなのに」
「いえ、気にしないで下さい。兼さんの事で主には大変な迷惑をかけてしまいましたし…と言ってもこのくらいの事で借りを返せる訳じゃないんですけどね?」
畳み、畳みと積み上げられて行く布を見つめながら私も一緒に畳んで行く。沢山の刀剣男士と生活する本丸で衣は勿論、布も多い。下着も出て来るのは当たり前であった。子沢山に恵まれたお母さんの気分である。