第4章 第四章
背中を擦る、ぴったりと胸板に顔を埋めた私は違うのだと首を振った。
「お互いを知り得た時…またお願いします」
「かしこまりました…ではぬしさま。添い寝だけというのであれば少し許して下さいませぬか?」
「えっ、あの…ちょっと…まっ、んん゙…っ!」
「噛まれると痛いですよ…野生ゆえ」
私の喉元に顔を埋めて来た小狐丸さんはよりによってガブリと噛み付いて来たのだ。八重歯が当たって痛い、血が出たのではないかと思えるくらいにじんじんする。涙目で睨む私に舌なめずりした小狐丸さんはうっとりと目を細めた。
「はぁ…ぬしさまの首に歯型がついてしまいました」
「っ!あのねー…噛んだのは貴方でしょうが、思い切り噛まれて凄く痛かったし…ちなみに言っておくけど、私は自虐趣味はないからね?」
「ぬしさまはこれで私を忘れませぬでしょう?この小狐を化かした罰に御座いまする…」
「…こんな罰は望んでいない。全く噛まれる身にもなって見なよ…」
「なんと。ぬしさまは私を噛んで下さるのですか?」
「しねぇよ、嬉しそうな顔すんな…」
小狐丸さんの言葉に踊らされ、口調が悪くなっているのが良く分かる。静かにと彼の形のいい唇を人差し指で抑えるとピタリと静かになった。もぞもぞと身体を動かして小狐丸さんから背を向ける、そろそろ本当に寝かせて欲しい…明日は早めに起きなくてはいけないのだと目を閉じる。すると後ろから私に抱き着いて腕枕をする小狐丸さんがいた。
「なんの真似ですか?」
「ぬしさまが添い寝をご所望とあらば…この小狐丸。精一杯勤しむ所存に御座いまする」
「……そう。じゃあお願いします」
「はいっ!」
もう勝手にしてくれ、そして今すぐにでも寝かせてくれ。そう薄暗い寝室で時計を見上げてからゆっくり目を閉じた。遠くなる意識の中で「ごゆるりとお休み下さいませ、ぬしさま…」と安心する声が耳元で聞こえた気がした。
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『〇〇…審神者をやって見る気はないかい?』
『私が?うーん…私じゃ足でまといになるし無理じゃないかな?』
『いや、そんな事はないさ…君を良く知る私がいうんだ。少し考えて見てはくれないだろうか?』
『分かった、貴方の願いだし…考えて見るね?』
『ありがとう…』
『ねぇ卯月(うずき)…男の審神者になって見て、やっぱり大変?』
『…どうだろうな。でも…案外楽しかったりするよ』
夢だと直ぐに分かった。