第4章 第四章
「お気持ちは大変嬉しく思うのですが、私は今日来たばかりで慣れておりませんので…もう少しだけ待って下さいませんか。長谷部さんにお聞きしたい事はまだまだ沢山ありますので…」
「私では…主殿のお役には立てないと、そう仰るのですか?」
「いや…別にそう言うつもりじゃ」
一期さんって案外グイグイ来るタイプなんだな…ちょっと意外だわと新たな一面を見て苦笑いする。先程の手の甲キス事件から数分、妙な攻防戦が続いていた。私がひらりと言葉で逃げようすれば、彼は言葉を返し捕まえに来るという感じなのである。困った、非常に困った…まぁ、確かに一期さんは真面目だろうし仕事もきっちりしてくれるだろう。しかしいきなり近侍を代えられた長谷部さんの気持ちを思うと「はい、分かりました」その一言を言えず素直に頷けなかったのである。
「分かりました、この話しは一旦保留致しましょう」
「ありがとうございます、そうして貰えると私も助かります…」
「ですが主殿、慣れた暁には私をお呼び下さい」
「ハイ、ワカリマシタ…」
鋭い威圧感があった。なんだこの一振り、ヤンデレか…忠義とか言いつつ嫉妬深いとか誰得だよ、おい。私は苦笑いで一期さんを見下ろし、今日は色々あって疲れたから休ませて欲しいといい、寝室へ入って行く。襖を閉めようと彼を見上げた時、私のまだ若干濡れていた髪の毛をすくい上げてキスを落として来た。一期さんは余裕のある微笑みと共に「お休みなさいませ、主殿…」そう呟いて見えて、呆然と立ち尽くす私の頭をポンポンと優しく撫でられる。
「お休み、なさい…」
「はい、それでは失礼致します」
いなくなるまで目に追い、襖をそっと閉めた私はズルズルと座り込んでしまった。なに今の、なに今の…忠義でこんな事をするの?彼らのスキンシップかなにか?キスをするのが普通なのか、怖いわ!あんな事されて惚れない訳がない!
「はぁー…もう疲れた。今日はもう寝よう…」
そう布団を見つめて首を傾げた。いや…待て。私はまだ布団を出していないという事にだ。そして布団にはモコモコと動いている為、誰かが入っているのは見て分かる。
「あのー…つかぬことをお伺い致しますが、どちらさまでしょうか?」
「あぁ、やはりぬしさまは小狐との約束を忘れていたと仰るのですね…」
「…小狐丸さん」
「ぬしさま…私の体で温めておきました。さぁさぁ…どうぞこちらへ?」