第3章 第三章
「岩融さん!まっ、むり!高い!止め、怖い!」
果たしてこれは日本語になっているのだろうか。しかし脇ではないのだ、命綱はなく肩に担がれる身にもなればこうなってしまうのは仕方ないと考える。しかし今剣くんは羨ましそうにぴょんぴょんと下で跳ね回り「あるじさま!ぼくもあとでしたいです!」となんとも可愛らしい笑顔を見せてくれたが、別に楽しんでなんていないし寧ろ助けて欲しいと涙目である。
「がはははは!そうか!主は楽しいか!」
「誰もそんな事、言ってなっ…ぎゃあああ!まっ、おねが!動かな、ぃやぁああ!!」
肩に米俵のように担がれた私は長い廊下を走り回る岩融と今剣に、女の子らしからぬ悲鳴が夜の本丸を木霊する。失神寸前で泣きそうな私に駆け付けた救世主が現れた、鳥帽子に緑色の和服が目に入る。
「岩融さん…これ以上は止めて差し上げなさい」
「これは石切丸殿!はははは!主は俺を楽しませてくれるか、ちょいと遊んでいただけよ!」
「主で遊ぶのは止しなさい、主が今にも泣きそうだ」
「なんと!」
驚いた声をあげた岩融さんは米俵を止めて、ゆっくり床に下ろしてくれたが足に力が全く入らず座り込んでしまった。2m以上ある男性に米俵抱きなど初めての経験だった、というかこんな経験普通の事を考えれば出会う事は先ずないだろうと思う。
「すまん、主…まさか怖がっていたとは思っとらんだわ」
「普通に怖いですよ…長身の男性に近付かれても心臓に悪いっていうのに米俵って。米俵って…」
「あるじさま、だいじょうぶですか?」
謝る岩融さんに心配する今剣くんを見る。後ろでは少しばかり呆れ気味に見下ろす石切丸さんの姿があった。うん、本当に貴重な体験をした。そう言えば随分遠くに来てしまったが、放置していた三日月さんは大丈夫なのだろうかと考える。
「岩融さんがしっかり抱き上げてくれたので…私は大丈夫ですけど。三日月さんがまだ廊下に放置…」
「主、三日月殿は狸寝入りだったぞ」
岩融さんが軽く首を傾げて私に伝える。うん…やはりか、だからあんなにも力強く抱き着いて来たのかと納得した。しかし本当に口から団子が出そうになったのは、色々と文句を言いたくもなった。
「宴、良かったんですか?」
「おぉ!そうだったな!どうだ、主も来ぬか!」
「いえ、もう少し月見を楽しみたいので…誘って頂いたのにお断りしてすみません」