第1章 『夢を見せて』
「……待ってくれ!」
私の背中に投げられた、声。何だろうか。別に、私はこれ以上革ジャン(仮称)と関わる気は無いのだけれど。いや、キッカケを作ってしまったのは私なのだから、仕方ないのか、この場合。
「……名前……。」
「お前、あ、いや、……レディ。名前を聞かせてくれないか?」
「は?」
今度は、私が口を半開きにしてぽかーんとする番だった。
いやいやいや、何?その芝居じみた言い回し。今時、テレビドラマでも、こんなセリフを投げる人はいないだろう。声だけは、異様にかっこよかった気がしないでもないけど。
「あ……、そ、そうだ。先程は、迫り来ていた危機から、俺を救い出してくれたのだろう?嬉しかった……ゼ☆」
革ジャン(仮称)は、無駄にカッコ良い声を辺りに響かせながら、夜にもかかわらず付けていたサングラスを放り投げた。今のは、格好をつけているつもりなのだろうか?
「きっとこの出逢いは、ディスティニー!」
革ジャン(仮称)は、私にチラチラと視線を送りながら、そう宣言した。いやいや、通行量の多い駅前で、そういうのはやめてほしいと思ったけれど、時既に遅し。私は、この状況にどのようにして対応したらいいのか……。
「レディ、この後、何か予定は?」
私が黙っていても、勝手に話が進んでいく。そう言えば、名前を尋ねられた気がするけれど、彼にとって、そんなことは、もう既にどうでもいいことなのかもしれない。
「い、いや、帰りますけど……。」
「先程の礼をしなくては、な。」
腕を組んで、革ジャン(仮称)は、ウインクを飛ばしてきた。この人はもう、何だかよく分からない。よく分からないが、恐らくあまり頭が良い人ではあるまい。