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夢をみせて 【おそ松さん 短編】

第1章 『夢を見せて』



「そうだ!そこの洒落たバーはどうだ?いい夜だろう?1杯付き合ってくれないだろうか?」
「え、えっと……。」
 誘い方そのものはキザったらしいが、こんな風に誘われるとは思わなかったので、咄嗟に言葉が出てこない。
「ほんの1杯だ。当然、会計は俺持ちで、だ。他の客もいる。警戒する必要は無いぞ。」
「いや、その。貴方はもっと警戒心を持った方が良いと思います。」
 口をついて出た、ツッコミ。怒られるかと思ったが、帰ってきた反応は意外なものだった。
「ハハハ、確かに。レディの言う通りだな。」
 革ジャン(仮称)は、何故か自信満々に、私の言葉を肯定した。もう何だか、細かいことはどうでもよくなってきた。それに、この人が悪い人間だとは思えない。そう言えば、この人、何ていう名前なのだろう?
「えっと……。じゃあ、1杯だけなら。」
「フッ……。決まりだな。」
 彼は、髪を触りながら、低音でそう言った。それにしても、見た目はなかなか類を見ないファッションセンスなのに、本当に良い声してるな、この人。

 バーに入って、お互い軽く自己紹介をした。私が心の中で、散々『革ジャン(仮称)』と呼んだり、『田中くん』と呼んでいたこの人は、『松野カラ松』という名前だった。松野さん、と呼ぼうとすると、何故か下の名前で呼ぶように言われた。カラ松さんは、無職で恋人がいないという、何とも言い難い身の上だった。
 そんなカラ松さんとしばらく話をしてみて感じたことがある。
 それは、彼はそんな境遇であろうとも、自身を一切卑下していないということだ。いや、むしろなんでそんなにポジティブなのか理解が及ばないけど。
 でも、いい。自分よりも下の人間を見て安心するだとか、そういった次元とは別の次元で、私はカラ松さんから元気を貰えたような気がするのだ。この出会いはこの出会いで、よかったのかもしれない。



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