第1章 『夢を見せて』
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「あれ……?」
思わず、小さく声に出てしまった。
私の視界には、革ジャンとサングラスの人がいる。え?あれ?あの男の人、まだいるの……?しかも、1時間以上前と寸分違わず同じ場所に……?誰かと待ち合わせにしたって、これはあまりにも長すぎるだろう。いや、私には関係の無い話だけど。
横を通り過ぎようとしたその時、革ジャン(仮称)が、ケバい女性に話し掛けられた。あぁ、待ち合わせの相手、やっと来た……んじゃないよね、どう見ても。あの女性は、誰がどう見たって、「そういう女」だ。この寒いのに、あんなに胸元の開いた、薄着のワンピース。あれでは、自分から周囲に「そういう女」だとアピールしているようなものだ。何となく振り返って革ジャン(仮称)を見ると、彼は人差し指で、ぼりぽりと頬を掻いている。その頬は、心なしか赤く染まっていた。いやいやいや、違うから。今からお前は「カモ」にされるんだからな!?
……まぁ、彼は私とは赤の他人なんだし、放っておこう。私には関係ない。女が誘導しようとしているその先は路地だから、もしかしたら私が思っている以上に、彼は危険な状態なのかもしれないけれど。私とは、赤の他人なのだし。
……。
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………………………………なのに、私は、何をしようとしているのだか。