第1章 『夢を見せて』
駅に向かう道すがら、店の前にセットされていた小さな出店を見つけた。その中で、ミニチキンセットが、私の目の前で半額になった。
別段、油っこいチキンが食べたいわけでもなかったので、無視しようと思ったけれど、どうにも自分と重ねてしまって、ついついひとつのパックに、手を伸ばしてしまった。その店では、結構な量が売れ残っていた。このままだと、きっとあの中の幾つかは棄てられる運命になってしまう。別に、私には関係の無いことだけれども、何だか気の毒に思えてしまったのだ。それに、そんなに高いものでもなく、むしろ定価でもお手頃価格だった。だからこそ、何だか近い将来の私を見てしまった気がして。
私がまだまだ学生だった頃の話。大人になった私は、社会人になった私はどんなだろう、なんて想像したことがある。何となく、就職して、何となく、恋人ができて、何だかよく分からないけれど、結婚なんかして、さ。それでさ、根拠もよく分からないけれど、何となく、幸せ、みたいな。そんな、夢をみていたんだ。でも、現実は違う。そんなに、ふんわりとした、砂糖菓子のようなモノじゃない。現に、現実にいる私は、そんなふんわりとした夢からは、遠い。毎日、生きていくのに、働くのに、必死だ。現実社会は、いつだって、そんなに甘くない。私がまだまだ学生だった頃にみたのは、何ということも無い、安い夢だ。でも、そう。そんな安い夢すらも、この世の中では見られないのだ。
石油王と結婚させろだとか、イケメン逆ハーレムの夢をみさせろだとか、そんな無茶は言わない。だから、せめてそんな、ありきたりで、幸せだとか思い込ませてくれるような夢を、ほんの少しで良いから、みてみたいものだな、ぐらいは、思ってしまう。
さて、無用な感傷に浸っている間にも、身体は随分と冷えてきた。急いで帰ろう。