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夢をみせて 【おそ松さん 短編】

第1章 『夢を見せて』


***

 適当にショッピングモールをぶらついてみたけれど、特にこれといって欲しいものがあるわけでもなかった。ウインドウショッピングを楽しもうなんていう元気も、特に湧いてこなかった。ところで、普段の日でも、スーパーマーケットでは、閉店間際になると、惣菜なんかの商品が割引で売られる。それは、クリスマス関連商品も決して例外ではなく、ケーキやチキンなんかは、8時を過ぎた時点で、割引シールが貼り付けられることが多い。私は、それを狙うことにした。私の狙い通り、8時を過ぎてしばらく経った頃に、ケーキやチキンに、割引シールが貼られ始めた。私にとって、実に喜ばしいことだ。私は、小さなフルーツケーキに手を伸ばして、迷わず購入した。あとは、これを持って家に帰るだけだ。家に、残っていたお酒があったはず。それと一緒に食べれば、まぁまぁ可愛いクリスマスなんじゃないかな。

 手に持っている透明なポリ袋越しに見える、割引シール。それを見て、ふと思ってしまった。
 私も、今年、来年、再来年……と経っていくにつれて、こうやって割引シールが貼られていくのかな、なんて。女の価値は、年齢じゃないとか、言う人もいるし、そんなのは間違ってるって分かっているつもりだ。でも、私の手にあるのは、時間切れで割引になった商品。何だか、今の私に重なるような気がした。私個人がなんだかんだと言ったところで、所詮女なんて、歳と共に商品価値が下がっていくとかいうふうに、見られるのだから。所詮、子どもを産めなくなれば、その分だけ価値が下がったとか、言われるんだから。私が、心の中で懸命に否定したところで、周りはそう見るのだから。本当は、もう私の身体には、勝手に割引シールが貼られているのかもしれない。私には見えないだけで。私が見たくないだけで。
 はぁ、と吐いた溜め息は、白く濁っていた。こんなことを考えていると、気持ちが暗くなってきた。いや、元々からそう明るい私ではないけれど。こんな日は、一刻も早く帰宅しよう。ケーキだけでも買えたのだし、もうここにこれ以上いる理由なんて無い。
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