第12章 飴と鞭
落ち着かない。
自分の家とはいえ、こんなに服を着たまま
この場で過ごしたことがあるだろうか
少し固めのショートカウチソファに座りキッチンに立つ
名前の後ろ姿を見つめる。
不意にこちらを振り向く名前に
驚いてタバコを落としそうになった。
『別に初めて来たわけじゃないんだし
そんなに緊張すること?』
ま、中には入ったことなかったけど
と言いくるりと辺りを見わたす。
『大丈夫、まだ痒くはなってきてないわ』
そういうとクスクス笑い
目の前にトンと、瓶のビールを二本置いた。
『レオにピザ頼んどいたから、
もー少ししたら届けてくれると思うわ』
名前は隣に腰掛け、瓶をこちらに寄せてくる
カツンと瓶と瓶を合わし
褐色の瓶にふっくらとした唇をつけ
上下に動く喉を見つめる
『久しぶりだね』
「あ?」
『こーやって、2人で飲むの』
そう言ってこちらに少し身体を向けると
色っぽく笑いもう一度瓶と瓶を打つける
『昔は良く飲んだじゃない?』
「最近は、情報収集ばっかだもんなお前」
ザップは、瓶を見つめながらそう言うと
一気に喉に流し込む
『ザップは、レオの護衛役じゃない
だから、拗ねてたの?
私と組めなくて寂しかったんだ』
かーわいい。
そう言っていつもの悪戯な笑顔を見せる名前に
ザップは苦虫を噛みつぶした様な顔をして
冷蔵庫へと、次のビールを取りに立つ
お前も飲むか?と冷蔵庫を開け
瓶を2本取り出し机の上に置く。
「ちげえよ」
『ん?』
ザップはソファに座りなおすと
タバコに火をつける
「そんなことじゃねぇよ」
『あ、そう』
新しい瓶を手に取ると
一口ゴクリと喉を鳴らしザップを見つめる
『じゃあ何?教えてよ』
相棒でしょ?色っぽく笑う名前にザップは
こういう時だけ都合がいいよな
何て呆れた様に笑う
「あのUSB」
『あー、あれね』
「俺は好きじゃねえ」
『何が?』
「ハニートラップとかいうのだよ」
肺から白い息を吐き、じっと名前を睨みつける様に見つめる
「諜報役ならチェインがいるじゃねぇか」