第10章 画面向こうの女はむせ返るほど甘い愛を囁いた
間接照明が灯るだけの
居心地のいい暗さのへやに、壁一面のスクリーン
いつもの様にローソファーにもたれ
映画をみる
1人で家にいる時のこの時間が何よりも好きだ。
いつもと違うとゆえば
シナモンの香るホットワインと
余程絨毯の肌触りが気に入ったのか、
斜め前にペタンと座り大きめのクッションを抱える
名前がいるという位だ。
映画はクライマックスへと入ろうとしているが
視線がチラリと名前へといってしまう
けして、気が散っている訳では無く
寧ろ自分でも驚く程に居心地の良さを感じてしまっている。
斜め前にいる名前の横顔をみると
大きなブラウンの瞳に映画が写り込んでいる
今日分かった事がいくつかある
名前と映画の好みが似ている事
意外と表情豊かに映画をみる事
初めて見る彼女の涙は
驚くほどに綺麗な事
エンドロールが流れ出しまだスクリーンを見つめる
名前を背中からふわりと抱え引き寄せると
拍子抜けするくらい
すんなりと股の間へと腰を下ろし
スティーブンに背中を預けてくる
気を良くしたスティーブンは彼女の前へと手を回し
彼女の細いうなじにキスを落とし
自身もエンドロールに目を向ける。
カチリとプロジェクターが止まると
『やっぱり何回見てもいい映画ですよね』
先程よりもスティーブンへと体重をかけ
映画の感想を話し出す。
彼女の耳障りの良い声を聞きながら
彼女から香る甘い匂いに酔いしれる
同じ石鹸を使っていてもこうも違うものかと
考えていると
『スティーブンさん聞いてます?』
彼女のむくれた声と共に
もー!と、足を伸ばして更にぐっと
もたれかかってくる
そんな恋人同士の様な甘い時間に
年甲斐も無く心がときめき
むず痒くなる
「来週は一緒に映画を選びに行こうか」
『ふふ、いいですよ』
もうしばらくと、彼女が映画の感想を話し終わるまで
甘い香りと回した手に伝わる
柔らかで暖かい名前の感触を味わう。